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獣の烙印  作者: 日野枝 弥
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第参拾話 結子、暴走する

 道には流された血が溜まり、あたりには()びのような臭いが立ち込めていた。

 二人を取り囲むようにしていたのは、無数の妖鬼たち。

 四つん這いになって地面を這っているモノや、ククリを思わせる緑色の皮膚に裂けた口を持つモノ、一見すると人間のような姿をした妖鬼もいた。

「間に合いませんでしたか……」

「だが、妖鬼に食わせたかねぇよ」

「俺も天ちゃんに同感だね」

「姫殿、さがっていてくだされ」


 妖鬼たちが気づいたようだ。

「なんだぁ?」

「獲物の横取りは許さねえぞ」

 血の臭いをかぎつけたらしく、左右の(しげ)みから次々と妖鬼がわき出して来た。


(この国は……この世界は……本当に妖鬼でいっぱいなんだ……)


 結子は小刻みに震えだした。実際に人間が襲われている現場を見たのは初めてだ。


(怖がってばかりじゃ何も出来ない。(あやかし)に好きなようにさせるわけにはいかないし、人間が安心して暮らせない世界なんて──絶対に間違ってる!!)


 統率者(リーダー)らしき妖鬼が、結子に気づくと気味の悪い笑みを見せた。

「おや……女がいるようだねぇ。しかも人間じゃないの。あたしは人間の女が大嫌いなのよ!! ちょっとくらい可愛いからってチヤホヤされて、むかつくわ。でも、お前が生け贄なのだろう? 香頭羅(かずら)さまは殺さずに捕らえろというけどねぇ……」

 香頭羅ときいて天壱は眉根を寄せ、万里と白蓮は身構えた。


 女モノの着物を着ているので、てっきり女性かと思いきや、声は男のダミ声だった。

「うっわぁ〜、オカマって初めて見た」

「妖鬼って以前に……別な意味で気持ち悪いね」

 左近と結子の放った言葉は禁句のようだった。

「前言撤回っ、斬り刻んでおやりッ!!」

 妖鬼たちがいっせいに攻撃をしかけてきた。守護四家は得物(えもの)をかまえ受けて立つ。

 幸い、妖鬼たちは妖力の弱い雑魚ばかりだったようで、天壱たちが優勢だ。

 結子は急いで怪我人のもとへと駆けつけたが、時すでに遅く、二人は事切(ことき)れていた。子供はよほど恐ろしかったのだろう……その頬には涙の(あと)が残っていた。

「許せない」

 せめて土に還してあげたい。妖鬼のエサになどさせてたまるか!! と、結子は拳を強く握り締めた。

「ふぅん……どう許せないのかしら」

 目と鼻の先には、オカマ妖鬼がいた。結子は唇をかみ締め睨みつける。


「結子…っ」

 天壱は戦闘の最中でも常に結子のまわりに気を配っていたが、ここにきて突然、オカマ妖鬼が視界に飛び込んできたので、刃についた血糊(ちのり)を振り払うと慌てて駆けつけた。


(油断もなにもあったもんじゃねえ、目が離せねぇよ)


 オカマ妖鬼の(のこぎり)のような武器を刀で受け流す。背後からジッと睨みつけるような視線を感じて、天壱は冷や汗を掻いた。


(すっげぇ睨んでる……やっぱりまだ怒ってんのか? 芸妓なんて遊びに決まってんだろが、遊びと本気の違いが女にはわからねえってのかッ!?)


「畜生ッ」

 女のバカ野朗――っ、と天壱は力技(ちからわざ)で押し返した。

 妖鬼は武器では敵わないと判断したらしく、身体から禍々しい妖気を放出しはじめる。

小賢(こざか)しい人間ども」

 オカマの身体が背中から割れていく。

 人間らしき姿からバケモノへと見る見るうちに変化した。

「あたしの餌にしてくれる」

「そうはいくかよ、オカマ野朗っ!!」

「天壱、あいつ絶対に許せない」

 やっと口を利いてくれた──と、こんな時なのに天壱は嬉しくなった。

「まかせろ」

 俄然(がぜん)やる気になった天壱は、刀を二本にすると猛然と突進した。


 結子は破邪の剣を抱きしめていた。

『巫女よ──戦え』

 破邪の剣が強く脈打っているのがわかる。

『そなたが望んだ力……思うがまま振舞うがよい』

 その言葉をきくと鞘から剣を抜き放った。

 不思議と身体が軽い。宝玉が共鳴し、まるで身体と剣を一体にしているみたいに感じる。

 ──が、剣は結子の意思に関係なく、突然動き出した。

「え……ちょっ……ええぇ―――っ!?」

 両手で制御しようとしても華奢な身体は剣に引きずられるばかり。

「いやあぁぁぁぁぁ、止めてぇぇぇぇっ」


 離れたところにいた天壱以外の三人は、剣の暴走に気づいていなかった。

「ヒュ〜。姫さん妖鬼に向かって、突進していくぜ! すげぇな〜」

 呑気に口笛を吹いた左近の隣で、万里が焦った声をあげる。

「ちょっと……あれはマズイですよ。止めなさい、天壱!!」

 オカマ妖鬼の本性は巨大な虫のようだった。節のついた脚が四本に、長い触覚。皮膚は栗色と白色のマーブル模様になっている。


(ひいぃぃぃ…ッ、気持ち悪い〜)


 結子は剣に引きずられ、みるみるうちにオカマへと接近した。

「結子、剣を放せ!」

「ダメぇ―――っ、放せないし、止まらないよぉっ!」

 天壱は涙目の結子を背後から抱きしめて止めようとするが、剣の暴走は止まらない。

 剣にひきずられるまま結子と天壱はオカマ妖鬼へと突っ込んでいく。

 破邪の剣は見事、妖鬼の頭部ド真ん中へと突き刺さった。

「ウギャアァァァ――ッ」

 オカマ妖鬼は不気味な悲鳴をあげながら、消えうせた。


 結子を抱きしめたままホッとしたのも束の間、剣は再び、別な妖鬼目指して動き始める。

「くそッ、どうなってやがるっ」

「天壱、助けて、なんとかして―っ!!」

「天壱! 早く姫様を止めなさい」

「んなこといっても、止まらねえッ!」

 どうする、どうしたらいい!? 天壱は必死に思考をめぐらせる。

 その間も破邪の剣は二人を道連れに、妖鬼を滅し続けていた。

「左近、鞘だ! 剣の鞘をもってこい!」

「よっしゃ、まかせろ」

 しかし、剣は鞘を待つことなく、そのまま妖鬼を追跡し鬱蒼(うっそう)とした森の中へ入っていった。追い詰めた妖鬼を倒した直後、突然、足場が消え失せる。

 それはまるで足下にぽっかりと穴があいたかのような感覚だった。

「きゃあ―――っ」

「うおっ」

 茂みに隠された大地の裂け目に、二人は気づかなかった。足を踏み外し落ちてゆく。


「左近!! 追って」

「まかせろって」

 翼をもつ左近が追いかけようとするが、妖鬼たちによって(はば)まれた。

 三人がすべての妖鬼を倒し、裂け目を覗き込んだ時、すでに二人の姿は見えなくなっていた。


新年明けましておめでとうございまーす。(ぺこり)

今年もよろしくお願いしたしますね。

 剣を手に入れて、いよいよ後半戦に突入であります。後半は過去や戦闘がメインになってくる予定です。感想などおまちしております。

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