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獣の烙印  作者: 日野枝 弥
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第弐拾七話 破邪の剣

(結子を連れて行くのか…? あの中に?)


 天壱はうなった。七色の光を放っていた結子の腕輪は、今は鳴りをひそめている。

「階段下りたら……どう見たって海の中…だよな?」

「なぁ、どうすんだよ!? ぜってぇ溺れるって」

 白蓮が様子をうかがいかねて、隣りの万里に訊ねた。

「どうなっておる?」

「信じられないかもしれませんが、海が割れてその中央に道が…。そしてその先は、下への階段になっています」

「海底神殿の入口か…行くしかあるまい」



 まず天壱が飛び石を蹴って、駆け抜けた。万里と白蓮がそれに続き、最後に結子を抱いた左近が飛行した。階段から、石の扉がある入口まで問題なく辿り着く。

 周囲の海水は入口を避けるように静止したままだ。

「さて…どうやって開けましょう?」

「「ぶち壊す」」

 声が重なったのは天壱と左近。盲目の白蓮に扉の様子はわからない。

「万が一ということもあります。神殿ごと崩したらまずいでしょう」

「「じゃあ、ちょっとだけぶち壊す」」

「あなた達にそんな器用(きよう)真似(まね)が出来るとは思えません!」


 騒いでいる三人を無視して、白蓮が結子に訊ねた。

「扉の様子を詳しく話してくれぬか」

「ここに…」

 結子は白蓮の手首をつかむと、扉の中央の模様へと導く。

 巨大な石の扉には、四角形を幾重(いくえ)にも描いた中に、扇形がふたつ対称に描かれ、その中央に交わるように丸円。その中には、紅・青・黄・翠色をした石がはめ込まれていて、その中心は丸く陥没(かんぼつ)しているのだ。その周囲には意味のわからない文字が(つづ)られていた。

「ひ…姫殿…」

「あっ、ごめんなさいっ、ごめんね」

 結子は慌てて手を離した。白蓮が大の女性嫌いだということをウッカリ忘れていた。彼の頬は紅潮し、額からは汗が滲み出ている。


(それにしても、どうして白蓮は女の人が嫌いなのかな…?)


 白蓮は指先で扉に触れ、少しでもその様子を読み取ろうとしている。


(もしかして、女性というより私が嫌いだとか? だったらショック〜!!)


「姫殿…いかがした」

「白蓮は…私が嫌い?」

 石扉を撫でていた指先が止まる。驚いたような顔をして振り向いた。

「わしが姫殿を…? まさか」

「だって…すごくイヤそうにしているから…」

女子(おなご)が苦手なのは昔からでの。その…むしろ姫殿のことは…好いておる」

「ほんとに?」

 少し震えた指先が、優しく両頬を包み込む。

「幼き頃よりお仕えし、ずっとその成長を見守ってきたのじゃ。姫殿は主君(しゅくん)である前に家族でもあった。わしの大切な方…もう死なせたりはせぬ」

 その言葉はとても真摯(しんし)で、胸を打った。相変わらず指先は震えていたけれど。

「ありがとう。無理させてごめんね。でも…どうして女の人が嫌いなの?」

「わしの育った里は、やたら女子の数が多くてのう。(ばば)たちにそれはそれは厳しく(しつ)けられた。おまけに忍の女子は強くて強くて…訓練でも散々な目に遭わされたのじゃ」

「女の人だらけで、女の人が嫌いになっちゃったのね…」

「わしはこの世で最強なのは、女子だと思っておる」

 彼はため息をつくと肩を落とした。その様子が普段の落ち着いた印象からはかけ離れていて可笑しくなってしまう。誰にでも苦手なものやトラウマはあるものだ。

「私はいじめたりしないよ。だから、もっと近くにきて」

「姫殿…」

 白蓮は戸惑いながらも、照れくさそうに結子の頭をそっと撫でてくれる。



「何やってんだ? 姫さんたち」

「さぁ、でも…」

 万里がチラリと隣を見た。天壱が二人のことを睨んでいる。

 万里から見れば、兄が妹を可愛がっているようにしか見えないのだが、色目(いろめ)をもった男にそうは映らないらしい。


(恋は盲目…ですねぇ)



 頭上ではかすかに波音が聞こえている。

 この場所は海の下にあたるというのに、海水などは全く入ってこなかった。ひんやりとした空気と耳鳴りするほどの静寂。だが、圧迫感のようなものは不思議と感じられない。

「この丸いものはなんじゃ?」

 白蓮が扉の表面をなぞりながら尋ねた。その声に天壱も覗き込む。

「これ…宝玉に似てるね」

「ほんとだ。色もそっくりだな」

「真ん中だけ陥没しているみたい」

 結子が中央のくぼみをなぞった瞬間、腕の宝玉が再び輝きだした。

「離れろ!」

「ふえっ」

 天壱が叫んでも手遅れだった。

 石扉がグラグラと傾いで、ドゴオォォンと向こう側へと倒れた。結子はそのまま扉の上へうっぷしたままだ。

「痛ぁ〜」

「ケガはねぇか」

「うん。あれ…開いちゃった?」

「開いたというより、倒れたな」

 天壱が苦笑いしながら起こしてくれた。

「神殿のわりに変な造りしてんのな、おもしれ〜」

「うっきっき〜」

「左近、罰あたりなことを言ってはなりません」

「結子の宝玉に反応したんだろう。でかしたぞ」

 天壱に褒められて結子ははにかんだ。


 扉の奥はひたすら石造りの通路が続いていた。低い天井も左右の壁も、地面も石畳だ。

 細い通路は迷路のように枝分かれしていたが、すぐ行き止まりになるので深入りせずにすんだ。あまりに親切な造りに、なにか仕掛けがあるのではと皆で注意を払うが、問題なく最奥へと辿り着いた。

「あっけなかったな」

 天壱が呟いた先には、松明に照らし出された古びた木製の箱がある。

 縄で結界を張られた祭壇の中央に箱は置かれており、護符のようなものが張り付けられていた。

「じゃあ、いくわよ」

 結子は袖まくりをして、気合十分だ。

「ちょっと待った」

「なによ。これで妖王(ようおう)を倒せるでしょ?」

「俺が行く。離れていろ」

「ここは天壱にまかせましょう」

 天壱が縄ではられた結界の中へと、腕をのばした。バチッと何かがはじける音がして、彼は顔を(しか)めた。すると宝玉が青い光を放ち、結界と共に箱の符は消え失せた。


 箱を開くと───全体に金と銀の細工が施された剣が現れた。


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