第弐拾六話 神殿現る
時刻は夜四ツを過ぎた頃───。
見た目わからないが、海面は昼間より幾分上昇している。
「昼間と変わらなくねえ? なぁなぁ、妖鬼はもういねえのかな?」
「万里」
左近を無視した白蓮が、催促するように松明を突き出した。応えた万里が護符を取り出す。
「火性礼賛」
結子もはや驚かなかった。慣れというのは恐ろしい。
満月といえども、夜の海すべてを見通せるものではなかった。火がつけられると五人はそれぞれ松明をかかげた。
(昼間は感じなかったけれど、なんだろう…身体が震える)
結子は小袖に草履という軽装だ。
昼夜で多少の温度差はあるが、雪など降ってはないし、震えるほどの気温ではないはずだ。
「寒いのか」
隣で天壱が心配そうな顔をしている。
「ううん、平気だよ」
努めて平静を装った。安心したのか彼は白蓮たちのもとへ行くと、なにか話あっている。
『──力を求めたであろう』
頭の奥で、記憶のどこかで、誰かが問いかける声がした。
だが、それが誰なのかが思い出せない。
(この声…私は知っている?)
無意識に身体が動いた。操られるわけでもなく───しかし結子の意思ではない。
(……私が力を求めた? ここに何があるの)
波打ち際へと歩いていく。天壱たちは話に夢中で気づいていない。
月明かりに照らされた夜の海は冴え冴えとしており、月光の届かない海中は漆黒の闇だ。
「天地万物──」
結子の口から知らない言葉があふれるように発せられた。囁くように唱えながら歩を進め、ザブザブと波をかき分けていく。
結子の異変に、皆が気づいて駆けてきた。
「結子!! やめろ」
「うおっ、つめてぇ! 姫さん、どうしたんだよっ」
腰のあたりまで海水に浸った身体を、天壱と左近が背後から押しとどめる。
顔を覗きこむと独り言のように何か呟いていて、瞳に正気がない。
すると──宝玉が七色に輝き出して、海中を一直線に照らし出した。
「とにかく引き上げましょう」
結子を陸へと引き上げても、腕の宝玉から輝きが失せることはなかった。
「しっかりしろっ」
天壱が頬を軽く叩く。顔を覗きこむと、しばらくして瞳に本来の輝きが戻ってきた。
それを確認すると安心したのか、濡れた髪をそっと梳いてやる。
「あれ…? 私……」
「突然、海へ入ろうとなさるので驚きましたよ。宝玉が──」
万里が最後まで言い終えないうちに大地が揺れだし、皆、足下がフラつくのを懸命にこらえる。同時に、激しく波打ちし水飛沫をあげた海面は、やがて轟音と共に左右に分かれて巨大な滝を造り出した。
「すげぇ、海が割れて滝ができちまった!!」
左近が瞳を輝かせている。
「それより、よく見てください」
万里が指し示す先に、一同は瞠目した。
海によって造られた左右の滝に挟まれるように、巨大な石が、飛び石のように一直線に並べられている。その先には石段があり海の底へと続いていた。
いや、その…だいぶ更新期間が開いてしまいまして、もし読んでおられる方がいらしたらすみません。
もう一つ小説を書き始めようかと思いまして、いろいろやってたら、パソコンが大変なことにぃぃっ…!
やっと神殿に辿り着きました(冷汗)