第弐拾参話 水天宮
「今夜が満月のはずじゃったな…」
「ええ、大潮です」
砂浜にぎらつく太陽に照らされて、五つの人影があった。
ここは暁にある江渡湊のひとつ──水天宮と呼ばれる浜辺だ。
昼間でも人の姿はなく、舟も係留されてはいない。
砂浜の後方には黒松が、小道に沿って均等に植えられている。
「綺麗な海……。でも漁師さんすらいないね」
「そうだな。それより、痛くないか?」
天壱かなにか慮るように結子の足下を見た。
「平気だよ。怪我もだいぶよくなったし」
草履をぶらぶらとして見せる。
陽射しが強いせいで砂浜は熱した鉄板のようになっている。
天壱は以前の踵の傷を気づかってくれたようだ。
「なかなか良い感じじゃ」
「えぇ。喜ばしいことです。護衛は三人より四人の方がよいに決まっています」
「あれだけ姫殿を避けていたというに、なにか心境の変化でもあったか」
「さぁ」
結子たちを見ながら万里が穏やかに微笑む。
江渡にて合流してから五人は行動を共にしていた。
天壱も単独行動するわけでもなく、護衛についている。以前のように結子を避ける素振りはない。
「おりゃ!」
「うっきぃ」
退屈を紛らわす為、貝殻を拾っては海に投げていた左近が振り返る。
「なぁ、なーんもねぇけど、ホントにここでいいの?」
「江渡湊にある浜の数は合わせて二十。西側となると五つに絞られます。洲崎、腰浜、舟町、木戸、そして水天宮。ここは独特な名称ですし、怪しいですよ」
「水天宮か…結子、なにか感じるか?」
「べつに…何も感じないけど」
「そうか…」
天壱のがっかりした顔を見ると、結子は申し訳なく思った。前世が巫女とはいっても、今の彼女には何の力もなかった。
天壱が突然、結子の身体を抱き上げ、後方へ飛び退いた。
万里も同様に退き結子たちの傍で身構える。左近と白蓮はジッと海を見据えたままだ。
何か来る───と白蓮がぼやいた直後、海中から何かが飛び出してきた。
「「「「妖鬼!?」」」」
四人から驚きの声が発せられた背後で、結子が騒いだ。
「いやぁぁぁっっっっ、気持ちわるい―――っ」