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獣の烙印  作者: 日野枝 弥
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第拾七話 江渡屋敷

 宝玉がないている。仲間を…大切なヒトを求めて共鳴する。

「大丈夫だ…結子は」

 男は自らに言い聞かせた。でなければ、すぐにでも引き寄せられてしまう。

 少しずつだが宝玉がこちらへと近づいてきている──天壱(てんいつ)江渡(えど)にいた。


 日中、港やら浜辺やらを探索したが、神殿らしき手がかりはなかった。

 夜になっても海は静かで打ち寄せる波も穏やかだ。

 国内の(ほこら)(やしろ)、神殿と呼ばれるところは探索し尽した。

 残るは目に見えない…例えば、結界に守られているとか通常は見えないようになっている──そんな特殊な場所しか思いつかなかった。


(そもそも破邪(はじゃ)の剣は本当に存在するのか…?)


 およそ百年もの間、探し続けて何の手がかりも得られていない。ただ、聖域に祭られているとしかあいつは話さなかった。


(あいつ──光の渦は何者だ?)


 力をもらっておいて今さらなのだが、結子が言葉どおり転生して現れた。

『戦闘服を纏いし巫女、破邪(はじゃ)(けん)ふるいて、六國(りっこく)(たみ)救わん。また巫女(みこ)より力の源なる宝玉を託されしうぬら、(けもの)となり候。誓いたてし獣、その力を(もち)いて巫女を守らん』


 天壱は最期の時に現れた青い光の渦に、二つの願いとひきかえに二つの代償を払っていた。

 一つは彼の望んだとおり結衣姫(ゆいひめ)が苦しみや怒りの感情に囚われぬ姿で生まれ変わること。もう一つは妖王と戦う力を得ることだった。

 そして天壱は二つの代償を思い、苦い笑みを浮かべる。


(たいした代償じゃないと思っていたのに…堪えるな)


 光の渦は───妖王とは異質な存在。それだけは兄弟達もわかっている。

 夜も更けたので今日の探索はこの位にしておこう、と彼は菅笠(すげがさ)を下ろし、(きびす)を返した。



 丸一日、飛び続けてようやく町が見えてきた。(あかつき)の第二の都市──江渡(えど)

 早朝にも関わらす、通りは行き交う人で溢れかえっていた。

「思ったより早く着いたな。やっぱ力があるとメチャ楽〜」

「江渡は久々ですねぇ。ずっと弐甲(にっこう)にいましたから」

「わしも破邪の剣探しで大坂(おおさか)におったからのぅ」

 驚いたことに三人は長旅、高速移動してきたにも関わらず、元気だった。むしろ、結子の方が心労でゲッソリしてしまった。

 左近と夜叉丸は仲がよいのか悪いのか…空中で結子を抱いたまま喧嘩したりジャレあったりと、生きた心地がしなかった。それでも振り落とされることはなかったが。

「とりあえず屋敷へ向かいましょう」

「そうだな、俺、腹へった」

「天壱がおるかもしれん」


 暁の領主の別邸───江渡屋敷は町中心部より少しはずれにある。

 塀に囲まれた屋敷は広大で、澄んだ池には橋が架かり、松や桜などの樹木が植えられている。手入れをする者でもいるのか、庭園は美しく保たれていた。

 ただ、不思議なことにありとあらゆるところに護符が貼り付けられていた。

「お帰りなさいませ」

 玄関の左右に立っていた二人の少年が(かしこ)まってお辞儀した。

日天(ひてん)月天(げってん)留守の間、異常はありませんでしたか」

「妖鬼が何度か侵入しようと試みたようですが、すべて結界に阻まれました」

「それ以外、かわりございません」

 結子より背が低く、小学生にしか見えない少年二人はまるで双子だ。

 顔も声も似ているし、着物も御揃いなので区別がつかない。鏡を(つい)にして見ているようだった。

「うわぁ〜、久々に見た、万里(ばんり)使役符(しえきふ)。相変わらず区別がつかねーよ」

「使役符って?」

「二人はヒト形をとっておるが、もとをただせば万里の護符。この屋敷の管理と警備をまかせておる」

 目を丸くしている結子に気づいたのか、日天が…いや、月天だろうか? とにかくそのうちの一人が微笑んだ。

「お帰りなさいませ、結衣姫さま」

「え…あの…お世話になります」

「なーに、かしこまってんだよ、実家みたいなもんだろッ」

 左近(さこん)が結子の肩をバシバシと叩いて、屋敷の中へと入っていく。

「こら、草履は揃えなさい」

「日天〜、腹へったぁ。なんか食いもんくれよ」

「まったくもう。足も拭かずに」

 怒っている万里の隣で、結子も盥にはった水で足をすすいだ。

 使役符の一人が拭き布を差し出してくれる。

「ありがとう。えっと、…日天?」

「いえ、私は月天です」

「そ、そうなんだ」

(はぁ〜、間違えちゃった。区別がつかないよぉ)


 部屋に入ると皆でくつろいだ。左近などは夜叉丸と甘納豆を奪いあっている。

「そういえば、天壱(てんいつ)がいませんね」

 湯飲みを手にして万里が呟いた。

「天壱様にはしばらくお会いしておりませんが…」

「え? だって蒼下(そうか)で会ったぜ」

「ちょっと…大丈夫なの? 妖鬼(ようき)に襲われたとか、怪我してるとか」

 天壱は命の恩人でもある。心配のあまり青ざめる結子を励まそうとしたのだが…。


「そうじゃ、女のところに泊まっておるのかもしれぬ」

 白蓮(はくれん)の思いきった失言に、万里は勢いよく茶を噴き出した。

「げっ、汚ねえなぁ、茶は噴くもんじゃなくて飲むもんだぜ。それよか天ちゃん、まーた捕まってんのかよ。もしかして駒屋(こまや)?」

女子(おなご)など恐ろしいもの、よく相手にできるわい」

「天ちゃん、昔から人気があったよなぁ。羨ましいよ」

 江渡の事情に(うと)い結子でも、さすがに風俗の話をしているのだとわかってしまう。

 可愛らしい顔に青筋がたてられるのを、万里だけが気づいて色を失った。

「ちょっと、あなた達、まだそうと決まったわけでは…」

「決まってんだろ、この邸で一人ボゥ〜としているよりは、カワイイ()とあーんなことやこーんなことをした方が楽しいぜ」

 このウツケッ!! 万里は心中で左近を呪った。

 そこへ白蓮が痛恨の一撃を繰り出した。

「とうとう店の娘と(ねんご)ろになったか…」

 鬼のような形相で立ち上がった結子に、一同驚いた。

「江渡見物してくる!」

「じゃあ、私たちもお供に…」

「一人で行きたいのっ」

 怒り心頭の少女は、一人玄関へと向かう。

 慌てて皆が追いかけてくる気配があるが、今は一人になりたい気分なのだ。

「ついてこないで!!」

 今の結子はすっかり頭に血がのぼっている。

 自分のことを守るといいながら傍にいてくれない。破邪の剣を探しているのではなかったのか。自分が異世界で散々な目にあっている間に、女性とあーんなことや、こーんなことをしていたのかと思うと腹立たしくて仕方がない。


「す、すげぇコワイ…」

「むぅ…身の危険を感じる」

「あなたたちは…余計なことばかり」

 万里が額に手を当てながら嘆いた。

「なんで、怒ってんだ?」

「あーんなことや、こーんなことに対してお怒りなんですっ」

「はぁぁ? だってカワイイ娘と飯食ったり、酒飲んだり、歌ったりだろ?」

 白蓮がア然としている。

「ウツケとは思っておったが、ここまでとは…」

「左近…歌うのはあなただけで十分です」

 万里が使役符二人を呼びつけた。

「二人で姫様を護衛なさい。私たちも気づかれぬよう、距離をとって尾行します」

「かしこまりました」

 日天と月天は瞬時に小鳥へと姿をかえると、少女のもとへと飛び立って行った。

「…姫さん、怒ると()えーのな」

「女子の心、わしには読めんかった」

「はいはい、反省会はそのくらいにして行きますよ」

 三人は身体を休める間もなく、町の賑わいへと身を投じた。


 一行は江渡にやって参りました。どうやら天壱も江渡にいる模様。

 果たしてあーんなことや、こーんなことをしているのでしょうか?

 剣を求めて(?)旅は続きます。

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