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獣の烙印  作者: 日野枝 弥
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第拾話 悪夢

 室の中は灼熱の海とかしていた。

 あたりに漂う、焦げ付いた臭いと燻る黒煙。

 あのひとはどうしている…? 炎の中、ひたすらに祈り続けた。

 今の自分に出来ることは、ただ無事を祈ることだけ。

 この戦いに勝利しなければ、暁は滅びるとあのひとは言った。


『結衣姫さまっ、お逃げください!! もう、この城は…』

 ザシュ…ッ!!

 家臣の返り血が着物へと降り注いだ。

 目の前には、妖ではなく、刀を手にした男がひとり。

『お捜しいたしました。結衣姫』


 あのひとを信じて…あのひとだけを待っていたのに…。

 着物の裾を踏みつけられて倒れると、銀色に輝く閃光が見えた。

 最期のときは、あのひとの腕の中でとの望みまで断たれてしまった。

 もしも、もしも生まれ変われたら…その時こそ。


 あなたの無事だけを願っている。あなただけは生きて──。


「いやぁぁぁぁ―――ッ!」

 自らの悲鳴で結子は目を覚ました。

 首筋には冷や汗が伝った。鎧をつけた男の顔はどこかで見た気がするし、なにか恐ろしく不吉な夢だった。

「ひどくうなされていましたね、起こそうとしていたのです」

 二人とも先に起きていたらしく、心配そうにこちらを窺っていた。

「怖い夢を見たの…とても怖い」

「無理もありません。突然、平和だった世界から妖のいる世界へときてしまったのですから…。もう少し休ませてあげたいのですが、朝餉を食べたらすぐに出発した方がよいでしょう。このあたりはひと気がない分、目立ちすぎる。朝餉といっても昨日と同じものしか準備できませんが…」

「うん、ありがとう。着替えたいからむこう向いていてくれる?」


 結子はバッグの中から制服をとりだした。ニーソもようやく乾いたし、天壱にもらった草履もある。上から藁の合羽でも羽織れば、昨日のように寒い思いをしなくてよさそうだ。

「もういいよ」

 声をかけると盲目の白蓮まで、顔をそむけていたらしい。

(真面目というか、律儀というのか…。ほんとにイイ人たちよね)


「姫様っ、そ、そ、それそれ、それはっ…戦闘服ではありませんかっっ!」

「戦闘服ぅ!?」

 突然、万里がはじめて見た制服に、大きな声をはりあげた。

 頼むから興奮しないで欲しい、と結子は思う。

「間違いありません。『戦闘服を纏いし巫女、破邪(はじゃ)(つるぎ)ふるいて』と聞きました!!」

 誰に…っ? 誰に聞いたんですかっ!? 結子は心中で叫ぶ。

「そういえば、清清しくも爽やかな気配がするのぅ」

「そのキリリとした白い線と青いハギレ、波うつような布地! ううっ…まさに聖なる着物」

「これは戦闘服じゃなくて、セーラー服ですっ」


破邪の剣を求めていよいよ本格的(?)な旅が始まります。そして、少しずつ妖鬼の皆様が登場します。

ちなみに架空の世界なので、江戸を忠実に再現しているわけではありません。

その点はご理解くださいませ。

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