邪神様の食事
変な人から変なメッセージをもらって、
むしゃくしゃしたので拷問してみた。理不尽すぐる
ガムテープを剥がす、ベリベリという音が其の部屋に響くと、男の必死に酸素を求める呼吸音が聞こえた。
壁や床、天井は黒に満たされたその部屋には、小肥りで肌の浅黒い男が、両手を天井から伸びる手錠に拘束されていた。
白いTシャツの上から、贅肉が付いているのがわかる。ファッション性の無い黒い薄手のズボンには、汗が滲んでいた。
さて、この男を拘束した犯人は男の目の前にいた。バサバサの茶髪頭に、端正な顔立ちをした青年である。その瞳は鮮やかな紫、右目は不気味に眼光を湛えぬ血色の瞳。眼鏡越しに光る紫が、人ならざる者であると自己紹介している。
けれど男は、必死で目の前を睨む。それが気に障ったのか、青年はおもむろに、勢いをつけ男の顔を蹴り飛ばした。
「ぶぁっ!」
男の脳内は一気にパニックになった。青年への恐怖や、忘れかけていた此処は何処なのかという不安が一気に頭の中に溢れたのだ。
青年は乱暴に男の髪を掴むと、自らの方を向かせた。
「――中世の囚人が、如何なる拷問を受けたか知っているか?」
ようやく開かれた口は、テノールでそんな言葉を紡いだ。男が面食らっていると、青年は構わず続ける。
「江戸時代、罪人が如何なる罰を受けたか知っているか?」
「――此処どこだ。お前、誰だよ!?」
青年は、一瞬眉を潜めると、男の左目を人差し指で第二関節まで深々突き刺した。
「あがぁぁぎぎぃぃぃい!?」
「ところで、人差し指は人を指差すから人差し指なんだろう? なんで子供に人を指差しちゃ駄目とか言うんだ?」
青年の言葉は男の耳には届かない。男の左目はもはや完全に失明していた。
「ま、いい。とりあえず、22番で行くか。」
男が口を閉じることも忘れ、涎をたらしながら痛みに悶絶しているのを見ながら、青年は曇りなき笑みを浮かべた。そして指を鳴らす。
男の体が手錠で吊り上げられると、両手足は、突然現れた十字架に固定された。両手両足の間接は歯車状のものに固定される。恐怖に怯え息を切らす男の姿を、青年は無上の喜びであるように眺める。
「第22番拷問器具、十字稼働関節器……。この器具は、一分ごとにそれぞれの関節が180度回る拷問器具。どちらかというと尋問に使った方がより適材適所だな。
そのうち何処かの関節がねじ切れるから、長くても8分ほどで死に至る」
「い……待て、待って! うわ、うわああああ!」
「開始」
青年の声と共に、鉄と鉄の擦れる重々しい音が鳴る。左手首を固定した稼働部の歯車が回転し始めた。
「嫌……ああ、あああああ!」
あああああああーー! ああぁぁあぁああぅああぁぁぁあーー!
痛みのあまり涎を垂らし失禁する男の姿を見てから、青年は再び歯を見せて笑んだ。
「ははは、なかなか良い声で鳴くじゃないか」
青年の、血色の瞳が強い光で瞬く。
「……やはり旨いな」
次の回転まであと如何程か。男の脳内は恐怖――すなわち絶望に埋め尽くされていた。と、青年は男に背を向けた。
「十分に堪能させて貰った。あとは勝手に愉しめ」
「え……やめ、待……!」
「次はどんな奴がいいか……」
青年は男と向かい側の壁の前で指を鳴らす。すると、自動ドアのように壁が二つに開くと、そこから光が差し込んだ。
――逃げたい! ああ、光がある。逃げる、逃げられる筈だ……こんなの悪い夢に決まってる……そうだ、手錠を振り払って、枷を外して、悪い夢から覚めるんだ!
男は残された最後の力を振り絞って右腕に力を込めた。やがて十字架に右腕を固定していた歯車は付加によって真っ二つに壊れ、床にカランと転がった。
次に左手の枷を右手で外す。上半身が自由になった男は、身を屈めて足の拘束をも外した。男は床にドタッと落ちると、弾かれたように起き上がり、光に向けて走った。
隣を通った青年などもはやどうでもよかった。男はただただ、助かった喜びを噛み締めていたのだ。
目の前が白い。ああ、光だ。助かった!
――ああぁぁ! ぅあっうあっうあぁぁぁあああああ!
絶叫と右手首の激しすぎる熱さと痛みによって目が覚めた。
――まて。待ってくれ。逃げられなかったのか? さっきの光は……!?
「少しは良い夢が見れたか? 今のは俺からのサービスだ。ありがたく受け取っておけ。
――ここから先は、終わり無き絶望と恐怖と痛みだ。じゃ、存分に堪能しろ」
男は両目の目の幅ほど大きな涙を流し、嗚咽しながら青年に懇願した。
「待って……ヒッ、下さい……お願い……ウェッ、助けて……助けて、助けてぇ!」
「止してくれ。最近は健康のため、腹八分目を心がけているんだ」
あくまでも噛み合わない奇妙な会話を最後に、青年は消えた。後には、拷問器具にくくりつけられた中年男性……そして、一分毎の絶叫だけが残った。
奇跡のシリーズ化もあるかも。