第一話〜プロローグ〜
第一話〜プロローグ〜
夏休み初日。
AM11:00
「今日からここで働くことになりました、神崎光子と言います。どーぞよろしくお願いします」
丁寧な挨拶をしているこの男。
この男こそが主人公である、神崎光である。
わざわざリクエストに答えて、かわいらしい声を裏声で出している。
こんなに真面目に挨拶をしているのに、周りの人たちは笑いを堪えているようにも見える。
「ププププ・・・ダァーハッハッ!もーダメだ!我慢できねぇ!アーッハッハッ!」
最初に笑い声を吹き出した男。
主人公の光の友達である、小日向健吾である。
「そんなに笑うなよなー。せっかく決まったと思ってたのに」
「そうだよ!笑うなんてダメだよ!」
横から健吾のことを指差しながらしゃべっているのは、ひとつ上の先輩の、桜木綾香先輩である。
この3人は、高校の時の生徒会の仲間であり、生徒会長に綾香先輩、副会長に光、副書記に健吾、という役割で当選した。生徒会の他の役員が、少しネクラすぎる人間が多かったために、3人だけが仲良くせざるを得ない状況下で、仲良くなった仲である。大学に進学した今でも、男女の差など関係なしに仲良くし続けている。
「で、でもよ!この格好って・・・アヒャヒャヒャ!」
気色悪い笑い方だ。
「ごめんね。光君の服をおばさんが濡らしちゃったから・・・」
「いえ、いいんですよ。一回こーゆー服も着てみたかったから気にしないでください」
「そう言ってもらえるとおばさんも助かるわ」
「ブーッ!ハッハッハッ!」
「ちょっと誰かこいつを止めてくださーい」
綾香先輩が誰もいない空間に向かって言った。
「いい加減にしてくれよ・・・」
光は呟いた。実は光もこの格好は恥ずかしかったのだ。でも服がないんなら仕方ないと思って着たのである。そしてちゃんとそれらしく挨拶もしたのに・・・
光は改めて自分よりも大きい鏡を見た。
そこに映っていたのは、ベースが黒で大きく白いフリフリのレースのついたスカートを身につけ、上にも黒をベースとした白いフリフリのレースがついた服を着込み、その上からレースたっぷりのエプロンを身につけ、「せっかくだから・・・」とおばさんがくれた白いカチューシャつけた自分がいた。
つまり光は、メイド服なるものを着ているのである。
これは恥ずかしい・・・。
そしてなぜこんな服があるのか。なぜならここは演劇場の貸衣装屋なのである。
ここの仕事は、この演劇場に来たお客さんに体験として着てもらったり、実際に演劇をする人たちに実際に服を貸したりしている。
「って今思ったんですけど、他にも服ってありますよね?」
おばさんに向かってズバリと聞いてみた。
「ギクリ・・・」
相変わらず古いリアクションだなぁ・・・と光は思った。
「まったく。よく考えてみればここって貸衣装屋じゃないですか。服なんていくらでもあるでしょーに」
「ギクギクリ・・・」
「はぁ・・・まぁいいんですけどね。とりあえず他の服貸してくださいよ」
「ん〜・・・これでいいかい?」
おばさんが差し出したのは、男のウエイトレスが着るような蝶ネクタイの制服だった。
「あ〜ちょうどいいですね。それにします」
「じゃあ5000円ね」
と言って手を差し出すおばさん。
「は?」
「だから5000円だよ。貸し衣装屋だからねぇ」
「じゃあこれは?」
光は自分の着ているメイド服を指差した。
「それはおばさんからのサービスだよ・・・ひっひっひっ」
「ホント負けず嫌いなところは変わりませんね」
「変わらないことはいいことだろ?」
「それもそうですね」
「すいませーん!」
「ほらお客さんだよ。早く行ってあげな」
「この格好で行くんですか?」
「当たり前だよ!貸衣装を着ていない店員はダメなんだよ!」
「そんな怒らなくても・・・分かりましたよ。行きますよ」
ここはコスプレ屋じゃないだろ・・・
こののほほんとしている時、まだ誰もショーが始まることは知らなかった・・・
第一話〜プロローグ〜終
連載にしていく予定なので、興味を持った方は辛抱強く見守っていてください。
コメントとかいただけると光栄です。