プレゼント
できるだけ読みやすく書いたつもりです。良かったら紅茶と一緒に。。。
そうだ、オレには大事なことがあったはずなんだ。オレはそれを成し遂げなければならない。ようやく思い出した。
「今日は茜の誕生日じゃねえか」
オレは全力で駅へ駆けていた。
オレは肩で息を弾ませながらも歩道橋を降りて行く。足を止めてはいけない。
とにかく走れ。
オレは携帯電話を方手に駅へ向かって走る。
きっかけは、数分前のメールだった。
『顔合わせてしまうと、泣きたくなるから言わなかったけど、今日、遠くに引っ越します。 さようなら』
相手は高校に入学して初めて仲良くなった女の子の茜。
後悔の気持ちを抱えながら、曲がり角を曲がる。
茜はいつも人に囲まれていた。同性から異性までたくさんの友達といつも話している。笑って冗談言ったり、起こった振りをしたり。まるで少女漫画のような時間を過ごして、それがとても羨ましかった。
オレもそんな人生を送ってみたいと思ったことがあったけど。どんなにやっても、茜のようにはなれなくて、あげくの果てに人間関係に疲れて、嫌になって、結局、隅っ子で笑顔で笑う茜を呆然と眺めていた。初めて仲良くなった友達が異国の人のように遠く感じてならなかった。
でも、そんな彼女がある日、オレに話しかけてくれたんだ。
「ねぇ、なんか大事なこと忘れてない?」
「え? 何?」
訊ね返すと、茜はフフフと不敵な笑みを浮かべて、オレに手を差し出す。
「プレゼントちょーだい♪」
「……は?」
「誕生日、今日は私の誕生日なの」
「あれ、今日なんだ」
「うん、だからちょーだい」
ねこ撫で声で催促しながら茜はオレの顔を覗きこむ。漫画のヒロインほど端麗な容姿はしていないけれど、人懐っこくて可愛い笑顔がオレは大好きだった。
プレゼントをあげたら、もっと喜ぶのかな。そう思って、オレは少しだけ気合が入った。
「よし、じゃぁ学校の帰り、一緒に街を歩こう。お前に似合う物をプレゼントしてやる!」
「あ、言ったね? 私、結構欲深いから覚悟してね?」
「お、おう……まかせろ」
そんなのりでオレは茜と一緒にプレゼントを買いに行った。
夕焼け色の空の下、オレと茜は二人きりで街を歩く。茜と一緒に時間をすごすのはなんだかんだで一年ぶりくらいのことだった。
「二人でこうやって歩くの久しぶりだね、もっと誘ってくれればいいのに」
「お前の周りにはたくさんの人がいるからな。声がかけづらいのさ」
少し投げやりな調子で言うと、茜はキョトンとした表情でオレの顔を見た。
「友達が少なかった私に、『いつでも声をかけていいよ』って言ってくれたのはキミだよ?」
「あれ、そうだっけ?」
「私にそう言ってくれたキミを嫌がる奴がいようものなら、私が許さないから。声をかけていいんだよ?」
そう言って、笑う茜が学年のアイドルよりも、可愛らしく見えてすごい幸せな気持ちになったことを覚えている。
だからオレはもっと喜ばせてあげたいと思った。
「そういえば、不思議だね。初めて声をかけてくれたときは私が隅っこにいて、キミが皆の中心にいたのに、今じゃ逆になってる」
「オレは無理にがんばり過ぎたんだ。だから、疲れて結局友達という存在がありがたい存在からただの錘になっちゃったんだよ」
「……私も、錘?」
「隅っこにいるオレにいつでも声をかけていいんだよ、って言ってくれたのはお前だけだよ」
そう答えると、茜はやったあ、と無駄に喜びの声をあげた。
「じゃぁ、私は唯一の友達だね」
「そうだな……ほら、ついたぜ、ここだ」
「え? ここ?」
オレは茜の反応を無視して、彼女の手を攫う。そして、店内へと強引に引っ張って行く。
そこはアクセサリー屋だった。オシャレなものから。マニアックなものまで幅広く取り扱っている。
「こんなところあったんだぁ、すごおおい」
茜は物珍しそうに感性をあげながらクラゲのように漂い始めた。
「面白いだろ? そんなお前になぁ、これをプレゼントしてやる」
オレはあるアクセサリーを持って、レジへと行く。お金はあまり使っていないので余裕があった。
そしてオレは茜の後ろに周り、アイテムを茜の頭につける。
「え? 頭……それって、まさか」
茜はおそるおそるこちらに振り返る。半ば青ざめた表情の彼女にオレは満面の笑みをぶつけてやった。
「そのまさかだ。さぁ、鏡にたってもらおうか」
オレはむりやり彼女の背中を押して鏡の前に立たせる。
鏡にはネコミミを装着した茜の姿があった。
「こ、これは……」
やばい、そう思った。あまりにも破壊力がありすぎる。夜、抱き枕にしたいくらい可愛い。
「こ、これがプレゼント?」
「似合うだろ?」
「い、いやあああああああああああああああ」
彼女は顔を真っ赤に染めて、部屋を飛び出した。
「みないで、そんなぬいぐるみを見るような眼でみないでうぅ、ただえさえ皆に童顔って言われるのに。似合ったらなおさら言われちゃうじゃない」」
彼女はがっかりしたように跪いて、うぅ、と唸った。
確かに、茜は童顔だ。高校生だが、子ども料金でたぶん電車も乗れてしまうだろう。だからかもしれない、彼女は自分の容姿にコンプレックスを持っていた。でも……オレにはむしろ誇りに思うべきところだと思った。
「オレ、童顔なお前の顔大好きだけどなぁ。そのオレがロリ属性あるとかそう言う意味じゃなくて、お前の笑顔とかちょっとした仕草とかがとても好きなんだ。正直言うと、学年のカワイイって言われてる奴らよりも好きだ」
「え」
茜は頬を紅潮させる。茜が照れている時はいつもそうなるのでわかりやすい。そのわかりやすさも彼女の魅力の一つかもしれない。だからこそ、もっと喜ばせてやろうと思った。
オレは茜が照れているうちに、他のアクセサリーを手に取り、茜の後ろに回ってもう一度付けた。
それは、ハート型のネックレス。ベターだけど、可愛らしい茜にあうアイテムだと思った。
「ほら、鏡みてみな」
オレは彼女の背中を押す。
前のめりになりながらも、茜は鏡の前に立って確認する。
「……かわいい」
彼女は息を飲む。
「私、似合う?」
「片言になってるぞ。」
「可愛い?」
「お前に似合うものをプレゼントするって言っただろ?」
瞬間、茜は花のような満開の笑顔をみせてギュ、と抱きついた
「ありがとう、ありがとう」
顔を押しつけたまま茜はそう言った。
「とても嬉しい」
ねぇ、と茜が訊ねる。
「来年は何をプレゼントしてくれる?」
茜はオレの顔を覗きこみながら訊ねる。期待が膨らんでそうに綻ぶ笑顔をみながら、オレはもっと喜ばせるために言った。
「次はもっと笑顔になれるようにしてあげるよ」
そんなちょっと、クサイ一言を彼女に言った。どんびきされるかなと言った後で後悔したが、彼女は、楽しみにしてるね、といつものように笑ってくれた。
そんな茜との約束をオレは忘れていたのである。しかも、その誕生日の日に遠くへ行ってしまうなんて。
「そんなの嫌だからな。何も言わずにどこか行くとか、最悪だ。誕生日なのに、プレゼントすらできないなんて」
でも、とオレは走りながら考える。このまま道を真っ直ぐ進めば駅に辿りつく。だけどオレはプレゼントを持っていなかった。茜をもっと笑顔になるプレゼントをする約束だったのに。
茜にあったとして、オレは一体どう言葉をかけるのだろう。
駅はもう目の前だ。形が鮮明に見えている。
駅に入り階段を上り、情報を見る。
どこかの駅で事故があったせいで、少し遅れがあるらしい。
オレは改札を抜けて、ホームへ走る。
そこには、事故の影響で止まっている電車とこっちを見つめている茜の姿があった。彼女とは距離がある。どんな表情をしているかまではわからない。
オレは大きく息を吸い込む。彼女の側へ言った。近づくたびに彼女の表情が鮮明になる。
「顔も合わせずにメールでさよなら、とか勘弁してくれよ。ただえさえ、声掛けずらいんだからさぁ」
「なんで来たの?」
もう覚悟を決めよう。
「だって今日はお前の誕生日だろ?」
「覚えててくれたんだ」
「本当は、つい数分まですっかり忘れていたんだ。でも、お前からメールがきて、思い出したんだよ! お前を笑顔にできるようにするって。それなのに、ごめん、オレ、何にも用意できなかった。誕生日なのに、ごめん」
もう、正直に話すしかなかった。せっかくの誕生日なのに、喜ばせる用意すらしていないなんて、最悪だ。
「……ほんとよ、忘れてたとか最悪よ。バカ」
「ごめん」
「誕生日、忘れてくれたままなら。期待なんてしないですんだのに。せっかく忘れかけていたところなのに」
「ごめん、だけど、どうしても会いたかったんだ茜に。笑うとめっちゃ可愛いお前に。見納め無しとかどんな罰ゲームだよ」
「こんなときまで、何言ってるのバカ! そんなこと言われたら余計笑えないよ」
茜はオレの肩に顔を押しつける。
「私を喜ばせようとしてくれる人と離れなきゃいけないなんて悲しすぎるじゃない」
「……ごめん、ごめん」
それ以上オレは言葉がでなかった。肩に感じる茜の温かさが夜の街灯のように目にしみて、これ以上言葉にならなかった。
「笑えないよ……忘れようとしてたときに、誕生日のこと思い出して、しかも別れ際にやってくるなんて、反則だよ」
「ごめん」
電車がプシューと音を立てた後、運転再開のアナウンスが鳴る。もう、あと数分もすれば発射する。
「ほんと、反則だよ。こんなプレゼント用意してくれるなんて、嬉しすぎて泣いちゃうじゃない」
「……ごめん」
「最高のプレゼントじゃない。何がプレゼントを用意してないよ、このバカ!」
発射のアナウンスがなる。茜はオレを突き飛ばして電車の中に乗る。それと同時、電車の扉は音を立てて閉まった。
扉を挟んでもわずか数センチの距離、それなのに遥遠くに感じる。
茜はオレに向かって何かを話していた。でも、扉が音を遮断して、何も聞こえない。
彼女の最後かもしれない声を聞けないまま、電車は発進した。
「……ごめん」
目が沁みて、涙がたくさん溢れてくる。
これが離れ離れにあるということが、悲しくて苦しい。
瞬間、携帯電話にメールの着信が来た。
相手は茜からだ。
文字は涙で霞んでいたけれど、そこに何が書かれていたのかはなんとなくわかった。
わかってしまったオレは跪いて嗚咽をあげて泣いた。
最期まで読んでいただける人がいたら、本当にありがとうございます。
少しずつ短編を書きながら執筆力強化中です。
ちなみに、ニコ生でゲーム配信やってます。良かったら遊びにきてください。
http://com.nicovideo.jp/community/co601203