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Merciless night  作者: 陸の海草
Merciless night ー境界の魔女ー
5/17

~第1章~ 表裏の空(5)

 獲物に突きつけられた刃は沈黙し、ただ、切り裂かんとしている。

 ファミーユは右手を地面につく。


「魔力を一つに集中させる……か」


 騎士の言うとおり、彼女も柱に懸ける魔力を千にすれば容易く騎士の剣を砕くことが出来る。だが、遅かった。騎士の剣はただ相手を切りつけるだけでなく魔力さえも削り、自身でも知らないうちに大きく魔力を消費していた。騎士の魔力を上回れるかは不明だ。一つの判断ミスが死を招く。緊迫した状況で彼女は一つの勝負に出た。

 右手で地面に魔術式を描く。それを見た騎士はファミーユへ襲い掛かる。


「確かに一つに集中させれば威力は上がる」


 瞬時に光の柱を召還し振り下ろされる剣を防ぐ。

 柱にひびが入る。

 使う武器には徹底的な魔力の差があり、騎士にすればファミーユの召還する柱は、風が吹けば崩れる砂壁に過ぎない。

 それでも尚、ファミーユは柱を振るい騎士に対抗する。

 騎士の剣に幾度と柱を壊されても再び召還し、また剣を交える。

 腹からは血が流れ出し体力的にも限界が来ていた。持ちこたえていられるのは後わずかだろう。


「でもね……」


 ファミーユは騎士の動きから少しずつ勝機を伺っていた。それと共に、別にどうでもいい騎士の剣筋が見えるようになり、剣からは薄っすらとハルバードが浮き出て見えた。

 見出す勝機は騎士の剣筋などではない。

 騎士との位置関係。

 さっき描いた魔術式が騎士の背後に来るよう仕掛ければ良かった。

 今、絵の場所と騎士とはファミーユを挟んで対峙している。ファミーユが見出した勝機は、騎士が鎧にある魔力が全て剣に注がれているならば、騎士を守る鎧は紙と同等であり、そこが弱点ではないかということ。しかし、鎧を狙うためには真正面からでは防がれる。確実に倒すためには、ファミーユと騎士の位置を反転させなくてはならない。

 立ち位置を反転させるまでは最短で3撃。

 残りの魔力を無駄にするわけにはいけない。

 ファミーユは勝利の方法を頭にイメージさせる。


「あなたの戦術には欠点があるわ」


 ファミーユの柱は騎士の左腕を突く。


 

 1撃。


 

 騎士はそれを右に避ける。

 続けて大振りで柱を騎士の頭目掛け振り下ろす。



 2撃。



 騎士はさらに右へ避ける。

 ファミーユは勝利を確信する。右腕魔力を遮断し柱を消し、替わりに巨大な魔力の弾を造り放出する。


 3撃。


 これを騎士が右に避ければ全てが終わる、そう思っていた。

 弾は騎士へ射出される。その威力は凄まじく当たれば即死であることは確実だった。だが、騎士はいとも簡単にそれを両手の剣で粉砕し、騎士はファミーユへ迫る。

 騎士の繰り出した刃はファミーユの右腕を突き刺す。

 血は刃を伝い騎士の腕にたどり着く。

 騎士は迷うことなく、もう一方の剣でファミーユの腹を突く。

 腹からは剣が突き抜け、完全に貫かれていた。

 ファミーユが左腕に持つ柱は消え去る。そして、自身を貫く剣に両手を乗せる。


「捕らえたわ。実体化させた魔力はすぐに消すことはできない」


「まさか」


 騎士は急ぎ剣を抜こうとするも抜けない。


「自己装縛が徒となったようね。ハルバードはそう簡単に抜けないわ」


 ハルバードは、ただ槍として突くだけの能力だけでなく、切り裂くために刃が矛先の横にも付いている。そのため勢いよく腹と腕を貫いたハルバードの横の刃は、抜くときには邪魔な出っ張りでしかなくなる。それに加えファミーユが柄を握っている。


「因縁に区切りは…就いた……かしら……ゴホッ」


 口から大量の血を吐き出す。


「心配しないで。あなたの魂はきちんと送還するわ。だから……」


 騎士は元主に身を委ねる様に剣を持つ力を緩める。

 騎士の魔力の9割は剣に使われており、身を守る鎧はただ実体化しているように 見せかけるだけで防御力は無に等しかった。

 それ故に、剣が抜けない今、騎士は自身の敗北を悟った。

 ファミーユは騎士の黒い鎧の胸元に手をあてる。


「安らかに就寝(終身)を。Repetition ascension(報いの死翅)」


「フッ………………」


 鎧は光る気体となり、騎士は光に包まれ消えた。

 ファミーユを貫く剣も光に包まれ消える。

 ファミーユは死んだようにその場に倒れる。

















「ファミーユ!」


 急ぎその場に駆け寄り、頭を抱き起こす。


「ファミーユ!」


「あら……成人……。あの子を助けないと」


 力の無い手で坂宮のほうを指差す。


「ああそうだな。じゃあ」


「何それ!」


 急にファミーユは声を荒げる。


「この戦いに至った目的は坂宮の救出だ。そうした場合、ファミーユは命を賭して戦い死んだ、とした方がカッコよくないか?」


 ファミーユはコクリと頷く。


「確かにその方が英雄になれる。でも、成人がヘタレだということは確実よ」


「まあ、自慢じゃないが戦っていないしな。だが今後の働き次第では……」


「どの道ヘタレ決定よ」


「くっそー。ヘタレにだけはなりたくなかったのにー」


「まあ今回は仕方が無いわ。成人が騎士を相手にするなんて……」


「さあ、戦ってみなくちゃ分からない」


「でも助力ぐらいしてもいいじゃない。だって成人は……」



「仲良くお喋りのところごめんなさい。けど、喋っている時間は無いんじゃないのかしら」



 少女の声がファミーユの言葉を遮る。


「人質を助けることがこの戦いの目的じゃないの?」


「リティ・ビレットか……」


 オレは身長140センチメートルぐらいで、長い髪に茶髪の少女を目にし、誰にも聞こえないように一人呟く。

 わざわざオレを探すため空を歪まさないでくれ。


「なんて成人?」


「いや……あの少女がかわいく思えて」


「何よロリコン」


「ロリコン言うな」


「あの……状況をわかっているの……。人質が取られているの、あなた」


 リティは冷静な口調で喋る。


「あなたが生きる死体と、騎士を呼び出した元凶ね。で、名前は?」


「私はリティ・ビレット。もし口での交渉で済むのならいいのですが……」


「交渉?いったいそちらの要望は何かしら」


「人質の解放」


「人質の解放?」


「真隼様の解放をお願いします」


「お、オレ?オレは何も無いぞ」


 リティは坂宮を浮かせ自分のところへ運ぶ。


「そうですか。口封じをされているなんて」


「誤解よ」


 坂宮がリティの手の上に乗る。


「兼ねてからの策を実行させてもらいます」


 坂宮の胸元から光る物体が浮遊する。


「あなた魂を!」


「そう。全てはヴァルハラのため」


「何をする気。まさか都市中の魂を集めて……」


「……そう。理想郷ヴァルハラへの道造り」


 魂?

 ヴァルハラ?

 二人の話は飛躍しすぎて内容が(つか)めないし、口を挿めない。

 ああ、これが世に言うデジタル・デバイト(情報格差社会)ってやつか……。

 感だが、どうやら都市(まち)の人の魂を使ってイリュージョンをするらしい。

 主人公キャラならこの場合……、


(そんなことはさせない!)


 とかなんとか。オレがやれば即死か。いや、大体やられて主人公はヘタレと言われ、不運な認識や誤解を生むのか。(あなが)ち間違いではない時もあるが。

 オレはそういったキャラではない。


 坂宮さえ捕らわれていなければ……。



「坂宮を返して貰いたい。目的はオレなんだろ」


 ええ、とリティは頷くが、


「でも遅かったですね。もう、“あれ”は開く。そのためにこの子(坂宮)の魂は頂きます。最後のピースとして」


 坂宮の魂が浮遊する。

 途端ファミーユが地面に手をあてる。

 先の騎士戦で描いた円形の絵からその場に電流が走る。

 竜のようにうねる“それ”は空を駆け坂宮の魂に到達し行く手を阻む。


「そんな体でよく魔術なんかを」


「あら。その体ってどの体かしら」


「………………!」


 オレは後ろを向く。そこに腹部から血を流す彼女の姿は無かった。


「驚いてるようね。騎士から魔力を分けてもらったのよ。傷を癒せるほどのね」


 計算通りというその表情はどッかの主人公を思い出させる。


「あの剣から……。しかたないわ」


 場の状況が不利と悟ったのかリティは姿を消した。

 電流は魂を元の体へ戻す。






 


 ―――――――――――――輝


 一つの光が坂宮の体へと吸い込まれ消えた。

 それがなんなのかは見当がつかなかった。








 坂宮の表情は変わらないものの一安心した。

 その後急ぎ坂宮を家へ送った。





 











 昨日の今日。本当に疲れた1日だった。

 まあ、何もしていないのだが、それでも疲れた。

 1件は済んだ。が、何も終わっておらず、猶予は短い。

 余命宣告は昨日の売却地から帰る時のことだった。


「リティはこの都市を生け贄に力を得ようとしている。おそらく準備は万端ね。この都市の至るところに魔術式が見つかっている。早くて3日以内に発動されるわ」


 とのこと。ファミーユの話が本当だと3日間しか都市はもたない。

 逃げるか。

 いや、そんなことをするとヘタレへの道を突き進んでしまう。

 できる限りの努力はする。それがオレの答え。

 だが、3日間。

 実感など起きない。

 普通の生活を送っていて、ちょっと痛みが体にあったから病院にいったらガンで寿命は残り3日間と言われる様なものだ。

 シリアスか、コメディーか。


「おっはよー成人」


 これはコメディーだよな。


「おはよ、雪上」


「どうしたの?考え事をして」


「考え事?……ああ、雪上と零のことを考えていたんだ」


「だってよ零」


 雪上の後ろからひょこっと零が現れる。


「おはようございます。成人先輩」


「おはよう」


「明日だね、お花見」


「ああ、そうだな」


「楽しみですね」


「だが、あと2人誘わない……と……、いや1人だけでいいか。誘うヤツはもう決めている」


 誘う人物は決めていた。と言っても決めたのは昨日だが。

 昨日の件からオレは坂宮を誘うことにした。

 哀れみから、可哀想な目にあったからではない。

 心から誘ってあげたいという心遣い。

 勿論、親友として。


「え?それって誰々」


 教えて欲しくせがむ雪上にお決まりの一言。


「それは、禁則事項だ」


 一度言ってみたかった。時代遅れか?

 否。最先端であり、心に残る一言だ。


「何それ~。」


「どうしても秘密なんですか、成人先輩」


 この返事が返ってくることは予想していた。

 だからこそ、


「禁則事項です」


(………………。)


 男が言うのも結構、気持ち悪いよな。

 まぁ、やりたかっただけだから。いい……よな。


「その……誘いたいって人、成人と同じクラスの坂宮さんでしょ」


(………………!)


 雪上。今、何て?

 オレは誰にも教えた記憶はないし、誘うと決めたのはベットの中でだし……。

 朝起きるまで誰とも会ってはいない。


(…………勘?)


 いや、それにしてもピンポイントすぎる。


「そんなことない……ぜ」


 ヤバイ。噛んじゃった。


「へぇ~。その割には黙っている時間が長いし、さっき噛まなかった?」


 零は不安そうな目でオレと雪上を交互に見る。


「そ……それなら、雪上が坂宮だと言える根拠は?」


「そ……それは、成人に言っても信じてもらえないから言わない」


「え!?」


 予想外の答え。

 オレが待っていたのはそんな答えじゃない。

 意味深過ぎる。


「ご……ゴメンネ、突然。今日、私変みたい。零ちゃん、私先に学校行くから、成人を頼むね」


 搾り出すようなか細い声。

 雪上は駆けてゆく。

 オレはそれを追わない。追えない。

 仮に雪上を追ってどうしたと問いかけても彼女を苦しめるだけかもしれない。


「零、 雪上を追ってくれないか。今は零が雪上のそばにいてやってくれ」


「でも、静先輩は……」


「オレが行ってはいけないんだ。だから……頼む」



 複雑そうな顔をしながらも、零はオレにお辞儀をし雪上を追っていった。

 オレは雪上と話す時間を作ることにした。

 簡単な話じゃなさそうだ。















 教室入り口のドアに手を掛ける。

 開ける手が震える。

 坂宮が居ませんように。

 ガラガラ………。


「おーい、誰かいませんか~?」


 声は教室に響き自分に返ってくる。

 よし。

 心の中でガッツポーズを決めた。

 

 ――――――――が、



「おはよう!ナッリ~!」


「おっ、おわっ!」


 心臓は破裂し、そのままオレは即死。

 目は白目をし、既に頭は地面に着いていた。


「ひどいよ。死んだふりなんかして!」


 体重が倍増したように重く、何かほっぺたがつねられたように痛い。


「動物さ~ん」


「ちょい待て~」


 頬を掴む坂宮の手をどける。


「オレの上からどいてくれるか」


 頬をつねられる痛みにより気づかなかったが、坂宮はオレの体の上に馬乗りになっていた。


「ナッリ~の上ふかふかして気持ちいいよ~」


「あのな、オレは羽毛の布団か、ソファーか、クッションか?」


「ううん。芝生」


「芝生かよ」


「それよりもあそぼ~よ~」


 この甘え口調には魔術が使われている。

 この口調に騙されてはならない。


「オレはそんなものには屈さん!」


「ナッリ~のケチ!」


「何だそれは」


 坂宮が体の上から離れる動きがみられないため、とっさに学生ズボンのポケットから秘密兵器を取り出す。


「輝きし飴を右腕に!」


 途端、坂宮は体から飛び退き右腕をガン見する。


「それはもしかして」


「そう。佑所正しきレモン味の飴」


 ゆっくりと体を起こそうとする。しかし、オレにそんな暇はなかった。


「それ、ほっし~!」


 ドサッ、っと音を立てまたオレは倒れる。

 逆効果だったと嘆く。

 だが、不思議な感覚だった。

 教室には人が集まっているのに、全く坂宮を気にする人が一人も……いや、一人を除き誰もいない。そればかりかオレを見る目線が異様に冷たい。

 

「成人。朝からイチャイチャか?」


 見上げたところに池井がいた。


「これをどう見たらそういえるんだ?これは襲われているんだ」


「へ~、やけに嬉しそうに見えるが」


 そう。実をいうと坂宮の胸が腕に当たっていて……、


「オレはいやらしい考えなんてしてないぞ」


「ほ~」


 疑うような目線。どうやら見透かされているようだ。


「とりあえず起き上がったらどうだ」


「ああ、そうだな」


 右手の飴を手放すと坂宮も綺麗に取れた。


「そういえば池井。今日はファンクラブが付いていないな」


「よせよ。俺はここまで隠れてきたんだぞ!」


 声は廊下を駆け巡る。そして、ファンクラブの耳へ……。


「イケく~ん」


 地響きと共に迫り来る女子の群れ。

 ここはサバンナか。


「池井。昼休屋上で」


 それだけ言い自分の席に着いた。

 もちろん池井は女子に囲まれ身動きとれず。

 まあ、仕返しのようなものだ。

 でも、疑問がある。

 何時もの教室ならオレと坂宮の関わりに対し、クスクス笑う人もいるが、今日はまるで坂宮が―――。

 少し考え過ぎか。昨日の今日で疲れているに違いない。朝のこともあるし。

 1時間目終了後、オレは保健室に行った。

 もちろんいやらしい考えは無く、ただ眠りに行くだけだ。


 

 3日間。



 実感はなくも頭にだけは残る。

 リティのヤツめ、厄介なことを。







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