~第1章~ 表裏の空(13)下
今回で最終回です
「ねぇ、何の話をしていたの?花見がどうとかって」
「それは、今日学園の友達を連れて双葉目学園から1キロメートル先の山へ花見を……」
質問をしたい。
オレは誰を見ていたんだ?
目の前にいるのは当然坂宮ではない。
それを承知で……、
「ファミーユかよっ」
と突っ込みをいれてみる。
絶対タイミングを間違えている気がするが……。
「相変わらず突っ込みがなってないわね。関西へ行ってきなさい?」
「い、いいえ。拒否らせてもらいます」
「……そう。で、なんで私に黙って花見に行こうとしていたのかしら?」
「黙っていたも何も、魔術界最高位の『賽の目』だろ。なぜその高貴なるお方が庶民の祝い事に参加されるのですか?」
ファミーユは『賽の目』の一人だ。これが意味することは誰でもわかる。
テンプル魔術団の最高位のであり、魔術師としても最高峰のところにいる人が、桜の木の下で魔術も使えない一般の人たちと酒を飲みかわしていると魔術団の人が知ればどう思うだろうか?
まぁ、ファミーユが自由奔放というか堅苦しくない人物でオレは嬉しい。
いづれ敵対するかもしれないが、ファミーユに負けるのならば悔いはない。
奴とは話が別だが。
「私が花見に行っちゃいけないっていうの?」
別段、ファミーユを誘わないつもりでもなかった。
といっても、誘わずとも来るのは目に見えている。
どうせ、追跡用の魔術を使ってオレを追ってくるに違いない。
「ファミーユを誘わないはずがないだろ。今日の午後4時頃に集まるって約束なんだが……」
「今は……午後2時ね。花見の場所には私が連れていくから、少し話をしましょ」
そうか。大分眠っていたらしいな。
大分傷をオレも負っていたから……、いや。俺より坂宮、そしてファミーユは腹部から大量に出血していたはず、
「わかった、話をしよう。それより最初に、ファミーユ……腹部の傷は大丈夫なのか?」
「ええ。腹部をリティに焼き貫かれただけだから」
何事もなかったようにファミーユは笑いながら話す。
ああ、そうか。
ただ腹を……ね……。
「大丈夫じゃないじゃないか」
何で笑いながら話すんだよ。おかげで騙されてしまった。
「大丈夫、大丈夫。リティがタイミングよく結界を壊してくれたおかげで、死ぬギリギリのところで魔術で応急処置を施すことができたわ」
「結界が壊れたおかげ、てあの結界はファミーユ一人で張ったのか?」
「ええ。だから黒騎士戦と昨日の戦闘時では保有魔力量は今の2分の1。簡単に言えば能力半減状態ってこと」
「そうか。それで結界が潰れたことで怪我を直すことができたのか」
「人が張った結界を潰したって……。とりあえず、そういうこと。けれど、成人に心配してもらえるなんて嬉しいわ」
「何でだ?」
「だって、人形ほどと言っていいほどの感情の持ち主が、この4カ月の間にここまで成長しているなんて」
「オレを何だと思ってるんだよ。一応人間だ。感情等については奴と坂宮のおかげだ」
「随分と坂宮さん出番が多いいのね。ヒロイン役取られたかも」
「なんだ?その脚本は?」
「いえ、独り言よ。それより坂宮さんだけど、成人はどういう魔術を使ったの?魔術行使に必要な神経だけを切断するなんて、聞いたことがないわ」
「あれは咄嗟に編み出した魔術だから、どういうふうに発動したかは覚えていない。だが、それを可能にしたのは坂宮のおかげかもしれない」
「坂宮さんの?」
「そう。坂宮の能力については本人から何か訊き出したんじゃないのか?」
「ええ、まぁ能力以外については。といっても、殆ど彼女から教えてくれたのだけどね。私から訊いたことは、ADEOIAに所属していたかどうかだけ。彼女が所属しているのならば今件の責任は当然、ADEOIAにあるのだから。ADEOIAは疵術師を誰かに利用されないようにするのが役目であり、その中には疵術師を守るという義務もある。結果、彼女は所属していた。でも、ADEOIA元帥からの報告では、彼女は二年前から行方不明、若しくは死亡という扱いになっていたわ」
ADEOIA、それは世界の全疵術師を統括しているテンプル魔術団機関。正式名称は疵術師公式国際魔術協会(Affected deference Encompass ― Official International Association)。前述にあるように疵術師を統括・管理しDMFBの索敵、討伐、研究を行っている。
当然、坂宮も疵術師なのだからADEOIAに所属しているはずだ。だが、行方不明や死亡扱いってどういうことだ?
死亡扱いされる理由としては、坂宮自身の魔力の消失。もしADEOIA元帥が疵術師一人一人の魔力の存在を把握し、生存を確認をしているのならばそれしかない。
この世界に魔力を持たないモノはないのだから。
「何でそんな扱いに……。現に今も生きている」
「……そう。だから、魔術団における最高位の権限で出来る限り調べたわ。組織による隠蔽や虚偽の報告書、事実の信憑性についても。でも」
「元帥の報告は本当だった……、と」
ファミーユは顔を曇らせながら静かに頷く。
……そうか。聞いた話では魔術団に問題はなさそうだ。
詳しい事実を知るには本人に訊くしかないか。
「つまり、ファミーユはオレから坂宮に事情を訊いてくれ、ということか」
「頼まれてくれるかしら?」
「わかった。条件付きで頼まれよう」
「何かしら、条件って?成人拘束の件ならもう帳消しになっているけれど……」
何々?とファミーユはオレの顔を覗き込む。
その顔は何かオレが要求する条件を楽しげに待っているように見えた。
そんなに見られても、期待するような条件はオレの口から出ないぞ。
「医療系統の魔術を学びたいから、そのための学術書が欲しい」
辺りに濁った空気が流れる気配を感じる。
ファミーユは興味深々だった顔から一変し、詰まらな顔になる。
「ハァ……。どこの真面目君なのよ」
「坂宮の喉応術性神経を繋ぎ直すための知識が欲しい」
と、瞬間ファミーユはより詰らないという顔になる。
見るからにやる気がない、ダレている、疲れているという言葉が似合う顔をしている。
「本当にヒロイン交代(後退)なのかしら。……坂宮さんの喉応術性神経ならとっくに私が繋げたわ」
「何……だと」
「昨日夜、私と公園で待ち合わせた後、学園に行く時のこと覚えてる?」
「ま……まぁ……。それがどうしたんだ?」
「学園に行く途中、成人のポケットを私があさっていたでしょ。その時にポケットからリボンを見つけたの」
ああ。保健室で何か拾った覚えが……。
「確か……、坂宮の魔力を少し感じて」
「あれは少しなんてレベルじゃない。すごく強力で坂宮さん自身の魔力で出来ていたわ。だから、昨晩成人に会った時に、異様な魔力を感じ取ってポケットをあさったの。何に使っていたかは分らないけれど、屋上にいた彼女は瀕死に近い状態だったから、そのリボンを使ったの。リボンを魔力へと還元させ、その魔力を私が行使して彼女の喉応術性神経に変形させて結び付けたの」
…………うむ。さっぱりわからない。
「そもそも、人の魔力を他人が行使できるのか?」
「いいえ。でも私の魔術なら可能よ」
そうだった。
目の前にいるのは不思議マジカル老婆だった。
「誰が老婆なのよ」
「なに!?……聞こえている、だと」
「まぁ、こんな感じの能力を使ったのよ」
益々わからない。
だが、坂宮の喉応術性神経が繋がっているのならば心配はいらないか。
「ありがとう、ファミーユ」
ベッドの上で少し上半身を起こした状態で、ファミーユに対し失礼と思いつつ礼をする。
「別にお礼なんていいのに……。同じ魔術師を助けるのは当然の行為よ」
少し照れるように微笑む。
同じ魔術師……か。
魔術師と疵術師についていろいろ険悪だの、侮蔑だの、差別とか聞いたりしたが、魔術団の最高位がちゃんと認めているじゃないか。
ファミーユだけでなく他の『賽の目』もまとも……と言う訳ではないだろうが。
「今の時間は?」
少し、魔術団に対する誤認があったようだ。
それでも、ここが全てではないことは分っている。
他も同じということはないだろう。
大きな組織になればなるほど内部は複雑化していき上の手が届き難くなる。
大きな組織を動かすには、大きな力が必要だ。
「今は、三時五十分ね」
「ギリギリだな。で、初めから訊いておくべきだったことなんだが、……ここはどこだ?」
「ここは極東第二魔術団統制直轄施設、IN飛羽市」
…………つまり、ここは魔術団の施設内と言うことか。
「ここからどうやって学園から一キロ離れた山に行くつもりなんだよ」
「そりゃ、車でしょ」
えらく現代的だな。
魔術が使えるのだから飛んでいくとかいうロマンはないのかよ。
因みに、オレは空を飛べるなんて便利な魔術は知らない。
「車の運転は?」
「私だけど。何か問題ある?」
直感だが、絶対に事故る気がしてきた。
「いいえ」
「じゃあ、早くベッドから起き上がりなさい。もう立てるでしょ?」
オレは一抹の不安を抱きつつ、ゆっくりとベッドから地面に脚を下し自力で立つ。
なにか脅されながら立たされているようでもないが……、
「ほら、早く動かないと針で点滴打つわよ」
「それだけは勘弁~」
今にもチクリと刺しそうな針はオレを追っかけまわす。
詳しく言えばファミーユが針を持って追いかけてくるのだが、は……針だけは、やめてもらいたい。
結局、オレはそのままファミーユの赤いポルシェまで針で追いたてられ、強制的に助手席に座らされ 車で拉致された。
ファミーユの運転はそれほど怖いものではなく、何事もなく例の待ち合わせ場所に着くことが出来た。
到着までの時間は5分程度。
これぐらいの距離なら坂宮も無事についていることだろう。
「さぁ、行きましょう?」
「あ……ああ。」
今の時間は3時58分。
このまま待ち合わせの桜の木のところへ……。
待った。一つ大きな問題があった。
「ファミーユ、お前の紹介はどうすればいい?」
迂闊にも、こちらファミーユ・リ・ルーシェさん、魔術師です。
なんてこと、言えるはずがない。
「普通の友達でいいんじゃない?外国から留学で日本に来ていて、偶然ショッピングモールで成人が衝動買いしているところに目がいってしまい、それ以来衝動買い仲間です、と」
「ああ、それでいくか」
絶対に可笑しいが気にしない。
どうしてショッピングモールが出てくるんだよ。
もう、どうにかなってしまえ。
「さて……もうすぐか」
歩く先に見覚えがある五人の友達が、大きな桜の木の下で待っている。
元気に手を振る雪上に、その横で控えめに手を振る零。
池上は何故かオレに不満そうな顔で見つめてくる。
そして、このイベントの主役である公林は一番目立たずオレに挨拶する。
ちょっと……気を使わせちゃったかなぁ……。
思ったより人数が増えて騒がしくなりそうなことに後の心配をする。
公林はこういうの苦手だったかなぁ……。
いろいろと不安が出てくるが考えても仕方ないか。
さぁ、花見と……、
「ナッリー!!」
「ウアッ、ヌォ」
突然の坂宮のおんぶ攻撃は、背中に伝わる胸の刺激がオレを痺れさす。
「私のこと、無視したでしょ」
「いやぁ、してないよ全然」
ただ説明がメンドくて……なんてことは言う訳にはいかない。
「とにかく、次無視したらレモンの飴玉百個ね」
「百個!?オレの学生ズボンのポケットが決壊する。……まぁ、持ってきてやるよ」
「わ~い」
オレの背中から離れると共に両手を上げて、キャッキャハシャギみんなが待つ桜の木まで駆けていく坂宮。
なにか、その光景がオレの心を満たす。
別に坂宮の胸が揺れるとか、そういったやましい理由じゃない。
いつも校内でやっていた喜びの舞が校外になっただけなのだが、その光景を守れたことに誇りを持つ。
この光景を実際に守ってくれたのはファミーユと坂宮で、オレはあまり助力も出来なかったが、今は満足している。
だから、後悔しないため全力で奴らに当たっていくしかない。
この場面を護るために。
「じゃあ、いくかファミーユ」
「随分と嬉しそうね?」
「ああ。坂宮とファミーユのおかげだ」
「そう。ありがとう」
当然のようにファミーユはそう言い、一緒にみんなのところまで辿り着く。
やっとの休息。
だが、それもすぐ崩れてゆくことも知っている。
オレはやがてくるその時までに、この手で誰かを護るための力を手に入れる。
そして、待っていろ……ヴィレイル。
やっと完結です。
約1年か……。
ここまで読んでいただいた方には感謝しています。
これからも宜しくお願いします^^
*割愛文章
ファミーユの自己紹介の時。
「私ファミーユ。成人の義理の妹なの~」
「やめろっ」




