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Merciless night  作者: 陸の海草
Merciless night ー境界の魔女ー
13/17

~第1章~ 表裏の空(13)上

 行が多くなってしまったために上下に分けて投稿

 どうしても今回で第1章を終わらそうとした結果です^^;

 

 

 音がなく、何かの“流れ”だけを感じる空間。

 ……ああ。

 

 ここは知っている。

幼いころから誰にも浸食されず、血のように絶えずオレの身体にそれは流れ続ける。


 ――――今も。


 流れる“それ”が何なのかは分らない。

 ただ感じるだけ。

 流れていると。



 カツン、カツン。

 足音。

 誰かが近づいてくる。

 確か、オレは屋上で意識をなくして……。

 まさか奴が……。

 オレは急いで重い瞼を開け臨戦状態に……、


「…………ん?右腕が……元に戻っている」


 オレは屋上で坂宮に右腕の骨を潰されたはず……。

 右腕はハルバードに刺された傷跡は残っているものの、普段の行動に少し支障をきたすぐらいの痛みにまで治まり、なにも違和はない。

 よく周りを見れば医務室のような場所。

 辺りは白く、棚のガラスケース内には医薬品らしいものが並び、最新の魔導回路を用いた医療機器もある。

 そして、オレの腕から細い透明な管が繋がっていて…………、

 

「なっ……」


 左腕に点滴のための針がっ。

 こ、こんなことがあってたまるか。

 オ、オレに……体に針が刺さっている。

 こ、怖い、怖い、怖い恐怖。

 た、頼むから刺したままにしないでくれ。

 は、針が折れたらどうすんだよ。刺さったまんまで、もし血管にでも針が流れたら心臓にまで達して、オ……オレは死ぬ。


(く、クソッ)

 

 こ、こんなことで死んでたまるか。

 慌てながら点滴用の針をどうにかしようとするが、ここで失敗して針を折ってしまえば本末転倒だ。

 それだけは避けなくてはっ……。

 

 ガラッ。

 オレが驚き取り乱している時に、ドアの開く音と共に部屋にファミーユが入ってくる。

 そう。オレを救ってくれる救世主のお出ましだ。


「た、頼むから針をうまく抜くことが出来る魔術を教えてくれ」


「…………は?」





 数分後、呆れたように溜息をしたファミーユが横たわるオレのベッドの横にイスを置き座る。

 結局、点滴用の針は抜いてもらい、針をうまく抜くことのできる魔術は教えてもらえなかった。

 

「成人って、意外と怖がりなのね……」


 酷く疲れた顔をするファミーユを余所に、オレの心臓は未だ針の恐怖に怯え疲れた顔も出来ず、崩れた笑い顔で硬直することしかできない。


「まさか……、まだ怖がっているの?」


「そ、そんなことあるわけない……ない、じゃまいか」


 か……噛んだ。だめだ。このままでは針に弱いことがバレる。

 いや……バレている?

 まだだ……。まだバレてはおらんよ。

 頬を引き攣らせながら無理に笑顔をつくる。

 自分でも気づいているが……表情は未だ崩れているに違いない。


「だ……大丈夫だ」


 またもファミーユは大きな溜息を吐く。それから、少しフフッと声を漏らす。


「……やっぱり、成人らしいわ」


「そりゃ、成人だからな」


 そうオレはファミーユの顔を見て真顔で応えた。

 するとファミーユはその言葉が数秒と経たないうちに笑いだす。


「なによ、成人だからっていう……出鱈目な答えは」


 そう言ってから、いや……そう言いながら笑うファミーユ。

 オレも何かは分らないが、多分その笑顔に吊られて笑いだす。

 久しぶりの軽い感覚と共に襲う、心に空く虚ろな空間。

 屋上での出来事が甦る。

 救うことの出来なかった坂宮。

 力の差を完膚なきまで教えられた奴との闘い。

 そんなことを回想しているうちに自然と自分の笑い声は止まり、ファミーユもオレの感情を悟ったのか黙り込み、真剣な顔でオレの顔を覗く。

 

「……ファミーユ。坂宮は……微笑んで眠っていたか?」


 重く口から出る言葉に、ファミーユは逆に軽く応える。


「ええ。確か……今も、いや成人を探していたわ」


 そうか。あいつは、まだオレの事を何か思っているのだろうか。

 死んだっていうのに……。


「そうか。今もこの世に魂が留まり、オレを探し彷徨っているのか」


 突然、心に怒りが湧き上がってくる。これは……坂宮を救えなかったことへの自身への怒りなのだろう……。


「くそっ。……あいつに……何も出来なかったなんて」


「あの……、えと……。成人?」


 ファミーユは困ったようにオレに問いかける。

 そうだよな。自分に対する怒りを吐き出したって、ファミーユが対応に困るよな。今そんな哀しみに暮れているぐらいなら、魔術の研究でもして奴に勝つ方法でも探さないと……。


「……すまない、ファミーユ。オレは……」


「ナッリーいたっ!!」


 バタンという音とともに響く歓喜の高い声。それとハシャグたびに揺れる左サイドのポニーテール。

 とうとうオレは末期のようだ。

 死人の声を聞く能力に加え、実体まで見えるようになるなんて。

 オレ……魔術師辞めて霊能力者にでもなろうか。

 坂宮(幻影)は横たわるオレに圧し掛かる。

 け……結構霊体の割には重量があるんだな……。


「これが、現実ならいいのに……」


「どうしたの?ナッリー。まるで死人を見るような目をして」


「いや、だって……死人だろ……」


 不意に心から嬉しみにも似た感情が噴き出す。その感情を抑えきれず、オレは思いがけず目から汗を流してしまう。当然、流すそれは涙なんだが……。


「すまなかった、坂宮。そして……ありがとう」


 屋上での言葉を繰り返す。

 クドい……かもしれないが、本当に伝えたかった言葉は違うが、“ありがとう”というのが一番近いから。

オレは上体を起こしゆっくりと背中に手を回し坂宮を抱きしめる。

 小さな体と柔らかい肌の実体を感じオレは安心する。

 オレはまだ、ここにきて何も失っていない。

 その事実だけがオレの心を満たした。

 ファミーユは横で微笑み、


「坂宮ちゃんと少し話したら?私はその後にまた来るから」


 とだけ告げ、イスから立ち上がり部屋を出てゆく。

 オレは坂宮から抱きしめていた腕を離し、涙を拭おうとするが屋上の時のように坂宮に涙を拭われてしまう。


「ナッリーに泣き顔は似合わないよ」


「そう……だよな」


 坂宮の言葉に押されオレは笑顔を作る。

 それを見た坂宮も笑顔する。


「うん、ナッリーはそうでないと」


「で、その容体は大丈夫なのか?」


「うん。ちゃんと元気だよ」


 いかにも元気と言わんばかりの腕の動作を見てオレは安心する。

 だが、あれだけの魔力を解放しきり、オレにかけられた呪いを受け入れたにも関わらずそう元気になれるものだろうか?

 オレにかけられた呪いは“死”。

 それを受け入れたのならば必ず対価、負荷がかかるはず……。

 そこはいくら坂宮が元気といっても疑問が残る。


「ナッリー?」


「お……おう。どうした?」


「変な顔してた」


「変な顔?……ああ。これか」


 鼻のてっぺんを右手人差し指で上に吊り上げ突き、左手で両瞼下を吊り下げ、文字通りの変な顔をする。


「それちが~う……」


 坂宮はプイッと頬を膨らませベッドから降り、オレに背を向け出口へ向かう。

 その後ろ姿を見て、ふと言わなくちゃいけないことを思い出す。


「待てよ、坂宮」


「なに?」


 未だ脹れた顔の坂宮が振り返る。

 そんなにオレのした変な顔が気に入らなかったのか?

 まぁいい。


「今日、花見に行かないか?行くのはオレと雪上と天水と池井と公林の五人なんだけど……」


 坂宮の顔は脹れっ面からキョトンとした顔に変わる。

 その後、またオレに背を向け


「行くけど……」


 ドアに手をかけ開けると同時に、


「ナッリー早く元気にならないと、弁当全部食べちゃうから」


 オレの方に振り向き様、下を出してニコッと笑い部屋を出て行った。

 あの表情は、よく子供が悪戯をする前の無邪気な笑顔だった。



次の~第1章~ 表裏の空(13)下が最終回です


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