~第1章~ 表裏の空(1)
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世界観やその他設定は同サイトのアカイロイロさんと共同で書いています。
この作品は純魔術が入っているので気を付けてください。
玄関のドアを開けて……。
「おっはよーう。成人」
「お、おはよう。朝から……元気…だな」
「当たり前でしょう。1日の始まりは元気さと笑顔から。これ基本」
「は……はあ」
いつものことだが雪上のテンションには圧倒される。
目の前で今日1日張り切るつもりのヤツが、同じ双葉目学園2年の雪上 静。金髪に長いロングストレートの髪。それをなびかせ日々笑顔。それがモットーらしい。
そして、その後ろにいるのが、
「よお零」
「おはようございます成人先輩」
「『先輩』はつけなくてもかまわないよ。ただの成人で」
「成人…さ…ん、はい」
天水 零。同じく双葉目学園1年。今年入学したばかりだ。髪色は雪のように白く、頭のてっぺんに2つのリング(輪)をつくったツインテール。容姿は一見幼く見えるが、たまに大人びて見えることもあり、オレは自分という1線を越えないために少し間を取っている。それほどに彼女は危なかった。
2人はオレの家の隣に住んでいる。両隣というわけではない。雪上が天水の家に居候している。聞いた話では親が海外出張だとかで、去年から出張に出てそれっきり天水の家にお世話になっている、ということらしい。人にはいろいろな家庭事情があるということだ。
「よし学校へ~レッツゴー」
「はいはい。行こうか零」
「はい」
都会に似つかない桜並木の道。ピンクのガラスの破片は風に踊らされ宙を舞う。
『サクラ』が始まりを示す物ならば、この年もまた始まりを表しているのだろう。
あの日に戻れれば……。
違ったか。
過去に戻りたい、と思うのは誰でもある。
それは、昔の禍根を晴らす、因の払拭や、刹那の夢をみていたいというものだろう。
それでもオレの考えは違った。
あの日に失くした、あの日に戻れば、失くしたものが無駄になる。
つまり、過去あっての自分という考え。そんなもの誰もが同じ、果たしてそうだろうか?オレはあくまでそう思いたい、という程度だ。
人の考えは年を重ねる毎に変わる。ならば、そこで満足してしまうことは、自身の過去に何も興味は無いということになる。
過去の自分は自分だが、今の自分は決して過去の自分とは全く違う他人。
その考えは自身の生きてきた歩みを消すことになる。
オレはそれだけは避けたかった。
今ある自分も本当だと信じたかったから……。
「ねえ、成人。春と言ったら何でしょうか?」
「それは決まっている。ウハウハだ」
一時、沈黙が訪れる。
「成人先輩?ウハウハって何ですか?」
「いや、『先輩』はつけなくても……。ウハウハって何だと。ウハウハか。ウハウハはだな……」
「零ちゃん。一ついいこと教えてあげる。ウハウハはね、……恋なの。」
「え!こ…恋なんですか?」
「そうよね成人?」
「え?あ…いや、ああ。」
予想外の答え。オレはスルーか、つっこみを待っていたのだが。
話が通じてしまっている。
「零ちゃん。もし狙っている男子、気になる子がいたら教えなさい。私がいつでも 相談に乗ってあげるから。それと、いい男子がいた場合も相談すること。」
「分かりました」
なぜか笑顔で返答する零。
ん?待てよ。オレはそのカッコイイ男子に入ってないのか?
「おい、雪上。オレは?」
「え!あの…それは」
言葉を詰まらせそっぽを向く。
「それは……」
「それは」
と聞き返してみる。
「あれよ、あまりに身近で、とても近くにいる存在で、気づけなかった。………え!」
雪上は自分の言った言葉になぜか驚きあたふたする。
「どうした雪上?」
「い…いや、なんでも……ない」
「ならいいけど。大丈夫か?」
「う…うん」
何が大丈夫か分からないが、まあ大丈夫ということで話を終わらせておこう。
「前言撤回。零ちゃん。好きな人の前では、もじもじしちゃだめなんだからね!」
いきなり顔の形相を変え零に説教じみたことをいう。
それに対しなぜか、はい、の2つ返事の零。
この二人の考えはどうなっているんだ、と考えている間に雪上は走り出す。
「じゃあ昼休、屋上でね」
雪上が勢いよく手を振る。
オレも負けないように手を振る。
「では、成人先輩。私も行きます」
「おう」
なぜか零も走り出す。
「何なんだ、あいつら?」
駆け出す理由を聞かず、遠ざかる背中を見送る。
教室のドアを開ける。
「おはよう、ナッリー」
「お、おはよう坂宮」
「おはよう成人」
「よお、池井。相変わらずのモテぶりだな。」
「おまえ、俺に対する侮辱と取らせてもらおう。俺は生まれてこの方、この顔を見るたび呪っている。分からないだろうね、この顔の皮肉さは」
いつもの通り池井は女子に囲まれている。
いじめられているわけじゃない。
「ねえイケ君。今日私と昼ごはん食べない?」
「だめよ。ねえ、私と、ヒ・ル・ゴ・ハ・ン」
「だ~め。私と」
「私も~」
と、このとおり彼はモテモテなのだ。
彼は生まれながらにしてイケメンと呼ぶほどのカッコよさ。これに加え賢く、優しいときた。誰からみても非の打ち所が無い人物。故に彼は学園のアイドル、と呼ばれているらしい。
オレと池井はこの学園から一緒。といっても昨年の冬に、オレがここの学園に転校してきたからだから付き合いは短いのだが、いい親友だ。だから、完璧なアイドルの悪いところも知っている。
それは、ネガティブという点だ。だが、そこをみせるのはオレと二人のときだけ。まぁいいヤツに変わりはない。
「池井、モテるのもいいが、ほどほどにな」
「おい、成人」
女子に囲まれる池井を通り過ぎ自分の席に着く。
オレの席は教室最後方、窓側の席だ。
「ねえ、ナッリー」
「なんだ坂宮」
坂宮、下の名前は忘れた。髪は茶髪がかった色をしていて、頭の斜め横に髪が結ばれている。そして、帽子を常に着用。黙っていれば美人なのだが……。
「なんだじゃない。わたし無視された~。」
「おまえいた?」
「いたもん。」
怒ってそっぽを向く。その動きに坂宮が被っている帽子もそっぽを向く。
「怒ったか。じゃあこの飴は、い・ら・な・い・ん・だ・な?」
ポケットからレモン味の飴を取り出す。
「それ、ほっし~!」
坂宮は目の色を変え飴に飛びつく。飴から坂宮を離そうと手をおもいきり振るも、飴を掴んだら最後、坂宮は絶対に離さない。
「あめちゃん~」
掴んだ飴の袋をほっぺでこする。
「おまえも相変わらず、だな」
授業の始まりのチャイムが鳴る。坂宮も、池井を囲む女子も急いで席に着く。
自分の席から窓のフィルムを通して、そらを見る。
雲は無く青々とした空間。ここが晴れでも、別の場所では雨、もしくは曇りなのだろう。
そう考えればこの目に見えるそらは、限られた空間だな。
空間が歪む。
「――――そこにいたんだ」
「え!」
空間の歪みは消え、元のそらに変わっている。
「夢だったのか?」
疑問はすぐに消え去り、どこかで隠れる。
―――――昼休。
オレは屋上への階段を登りドアを開ける。
「あ、やっと来た。ほら成人」
屋上にいる雪上と零に近寄る。
雪上と零はいつもの様にランチョンマットを敷き、弁当箱を広げる。
「じゃじゃ~ん。これ全部零ちゃんが作ったのよ」
まるで自分が作ったかのように両手を広げ弁当を強調する。
「そんな。静先輩も手伝ったじゃないですか」
「これまた豪勢だな。さすが零」
「せ……先輩」
零は顔を手で隠し後ろを向く。
「おい、雪上。あいつ、零はどうしたんだ?」
「照れてるのよ。成人の前だから」
「静……先輩……」
「冗談よ、冗談。さ、昼ごはん食べましょう」
「おう。おい、零も早く」
「は、はい」
零の作った弁当に手を伸ばす。
「このウサギウインナー零が作ったのか?」
「はい。お気に召しませんでしたか?」
「いや。いい具合に足が反っていてかわいい」
「え、あ、ありがとうございます」
ウサギウインナーを口に入れる。
「ねえねえ、私の卵は?」
「ふ…ん。こえふぁ?(う……ん。これか?)」
「そうそうそれ」
「ふぁあ。うまふできてるじゃないふぁ(おお。うまくできているじゃないか)」
「なら食べてみて」
「ふぇ、いまくちのなふぁに」
「いいの、いいの。ほらああ~ん」
無理やり卵を口の中に詰め込まれる。
「し……静先輩!」
「なに?そ~。零ちゃんもしたいの~?」
「え、いや私……」
「したいんでしょ?」
「え……、でも」
「やりたいんでしょ。ならこうしないと」
零の腕を無理やり掴み、零の手でシュウマイを取る。それをオレの口元まで運ぶ。
「あ……だめ。先輩はまだ食べています。」
「いいの、いいの。結構ああみえて、口の中は宇宙なんだから」
「そんなことはありません」
「いや……まふぇ。おふぇのくちのなふぁいっふぁい(いや……まて。オレの口の中いっぱい)」
シュウマイを挟んだ零の手が口に迫る。
「え……、い…いふぁまふぇ。ふぁやまるふぁ(え……、い…いや待て。早まるな)」
むぐ……。
容赦なく零がつくったであろうシュウマイが口に入る。
何か異変に気づく。
こう、シュウマイとは言えない、辛いような、つんとくるこれは……、
「えほっ、えほっ。」
あまりの辛さに咳き込む。
「先輩!だいじょうぶですか」
零がオレの異変を感じ、急いでハンカチを渡す。
「あ……ああ。だが、こんなにからしを入れたのは誰だ、といっても犯人は一人。」
零からもらったハンカチで口元を拭き、オレはその犯人の方を見る。
「え……わ、私?」
「お前以外に誰がいるんだよ。雪上 静!」
名指しで指をさし、ポーズを決める。
決まったぜ。
「ごめんなさい。ちょっといじりたかったの」
「オレでか。止めておくことを助言しておく」
「ごめん」
「べつにオレに謝らなくてもいい。だが零には謝っておけよ」
横には今にも泣きそうな零がいた。
「ごめん零ちゃん。悪気が……ないわけでもないのだけれど」
「いいんです。いじられるようなシュウマイを作る私がいけないんです」
「そ、そんなこと無いと思うけど」
雪上とオレで同時につっこむ。
オレたちの頭上をスズメが飛んでゆく。
「さ、ご飯も食べたことだし、教室に戻りましょ。」
時計を見る。時計の針は、12時40分を過ぎた辺りだった。
「おし。行くか。」
「はい」
零と雪上は弁当箱を重ね、ランチョンマットを片付ける。その間、オレは空を眺めていた。遠くまで広がる青の天井。オレはその風景が好きだった。何事も感じさせない、ただ青いソラが。その反面、夜の暗さは嫌いだ。なぜかは分からない。でも、たまらなく哀しい気持ちになる。
雪上と零の方に視点を変える。
「終わったか?」
「こっちは終わったよ」
「こちらも終わりました」
「行こうか」
「放課後にね成人」
「また。放課後に成人先輩」
「ああ」
放課後、登校してきた道を一人逆行する。雪上、零二人と一緒に帰るつもりだったが、二人とも用事があるらしく一人で家に帰ることとなった。帰り道の途中、自動販売機で缶ジュースを買って公園で一人ベンチに腰をかける。
周りに人はおらず、太陽だけがオレを照らす。日が没するにはぜんぜん早い。
「あ~つかれた~」
人がいないので叫んでみた。寂しいからかもしれない。自分の行為に少し恥ずかしく思う。
「何やってんだろ?」
缶ジュースを飲み干し、ゴミ箱へ缶ジュースを投げ捨てる。
カランと音がして、見事ゴミ箱の中に入る。
家へ帰ろうとベンチから立ち上がったとき、ソラが暗闇へと変わっていった。
その現実に何か反応をしようにもできず、ただ暗くなる現実を受け入れた。
青の天井は黒に侵食され、塗りつぶされてゆく。
空を黒くするのにそう時間はかからなかった。
やがて、空は闇に覆われた。




