第7話「共有された熱と蝕まれる銀」
胸の中央から、焼け焦げるような熱が全身へと波及していく。
それは今までリアンが引き受けてきた、内臓を凍らせる呪いの冷たさとは対極にある感覚だった。
血に濡れたエリアスの掌が、リアンの心臓の鼓動と完全に同調して脈打っている。
互いの魔力が血管を這い回り、見えない糸で魂の底まで縫い付けられるような強烈な結合。
「っ……あ」
リアンの喉から、声にならない吐息が漏れる。
黒く変色していたリアンの指先から、ゆっくりと本来の血の気が戻り始めていた。
代わりに、エリアスの白銀の髪の毛先が、泥を被ったようにくすんだ灰色へと変色していく。
呪いの負担が、強制的にエリアスの肉体へと流れ込んでいるのだ。
「やめ……ろ」
リアンは必死に腕を伸ばし、胸に押し当てられたエリアスの手を引き剥がそうとする。
「君まで、壊れてしまう」
その言葉を遮るように、エリアスがリアンの手首を強く握りしめた。
「俺は壊れない」
至近距離で見下ろすエリアスの青い瞳は、熱病に冒されたようにギラギラと輝いていた。
「お前一人に地獄を歩かせはしない」
「これは僕の……僕だけの役目だ」
「俺の命の半分はお前だ」
エリアスの断固たる声が、反論を許さない重さで響いた。
「お前が死ねば、俺も死ぬ。だから生きろ」
それは強引な論理だった。
しかし、リアンの体内で暴れ回っていた呪いの痛みが、劇的に和らいでいくのは紛れもない事実だった。
肺に新鮮な空気が入り込み、視界の霞みが晴れていく。
エリアスは激しく咳き込みながらも、リアンを抱きしめる腕の力を決して緩めようとしなかった。
彼の大きな背中が、荒い呼吸に合わせて上下に揺れている。
「馬鹿だ……君は、本当に」
リアンの目から、熱い涙が止めどなく溢れ出した。
「お前にだけは言われたくない」
エリアスが苦しげに顔を歪めながら、不敵に口角を引き上げる。
その笑顔を見た瞬間、リアンの胸の奥で固く結ばれていた恐怖の糸が、ふつりと切れた。
もう一人で抱え込むことはできない。
否応なしに、二人は同じ運命の泥舟に乗ってしまったのだ。
『だったら、二人で生き抜くしかない』
リアンは震える両腕を回し、エリアスの広い背中にすがりついた。
彼から伝わる確かな鼓動が、リアンに生きる意志を呼び覚ます。
広場の静寂を破り、遠くから多数の軍靴の音が近づいてくるのが聞こえた。
異変を察知した騎士団の増援が到着したのだ。
「行くぞ」
エリアスが立ち上がり、リアンの体を軽々と抱き上げる。
彼の呼吸はまだ乱れていたが、その足取りに迷いはなかった。
灰色の空から、冷たい雨粒がポツリとリアンの頬に落ちる。
嵐の前の静けさが、ついに終わりを告げようとしていた。




