エピローグ「永遠の軌跡と重なる歩幅」
王都を見下ろす丘の上には、心地よい春の風が吹き抜けていた。
見渡す限りの青空の下、眼下に広がる街並みは白く輝き、穏やかな呼吸を繰り返している。
丘の中腹にある大きなオークの木の下で、リアンは静かに目を閉じていた。
草の匂いと、土の温もりが鼻腔をくすぐる。
ここは幼い頃、二人が初めて「ずっと一緒にいる」と約束を交わした場所だった。
背後から、草を踏む静かな足音が近づいてくる。
振り向かなくても、それが誰であるかは魂の底で理解していた。
「こんなところで寝ていたら、風邪を引く」
呆れたような声とともに、リアンの肩に厚手のマントが掛けられる。
エリアスの体温が残る布地に包まれ、リアンはゆっくりと目を開けた。
「風が気持ちよかったから、少し休んでいただけだ」
見上げると、眩しい光を背負って立つエリアスの姿があった。
白銀の髪が風に揺れ、青い瞳が優しくリアンを見下ろしている。
あの凄惨な戦いから、すでに三年の月日が流れていた。
リアンは神殿の治癒士として、呪いではなく正当な魔法で人々を救う術を確立し、エリアスは騎士団長として王都の防衛を担っている。
互いに多忙な日々を送っていたが、こうして時折、二人だけの時間を過ごすためにこの丘を訪れていた。
「お前は昔から、目を離すとすぐにどこかへ消えようとする」
エリアスがリアンの隣に腰を下ろし、その長い脚を投げ出す。
彼の手が伸びてきて、リアンの左手をそっと握りしめた。
薬指には、互いの魔力が編み込まれた銀の指輪が光っている。
命を共有した誓約の証であり、二人が真の伴侶となった証だった。
「もう消えたりしないよ」
リアンはエリアスの肩に頭を預け、その大きな手に自分の指を絡ませた。
「僕の命は、君と繋がっているんだから」
「あぁ、分かっている」
エリアスの低く穏やかな声が、リアンの鼓膜を優しく震わせる。
「だが、何度でも確かめたくなる」
エリアスはリアンの手を持ち上げ、その指先にそっと唇を落とした。
温かい。
かつて呪いを引き受け、氷のように冷え切っていた指先には、今は命の熱が満ち溢れている。
その熱を感じるたびに、エリアスの心は深い安堵と満たされた感情でいっぱいになるのだ。
「心配性だな、君は」
リアンが小さく笑うと、エリアスもまた唇の端を吊り上げた。
二人の間に言葉は必要なかった。
風の音、遠くで鳴る教会の鐘の音、そして互いの重なり合う心音だけが、完璧な静寂を作り出している。
過去の絶望も、死に戻りの記憶も、すべてはこの温かい時間のためにあったのだと、今ははっきりと分かる。
リアンはゆっくりと目を閉じ、エリアスの体温に身を委ねた。
彼らが歩む未来には、もう悲劇の影は落ちていない。
ただ、この永遠に続くような穏やかな光の中を、二人は同じ歩幅で歩き続けていく。




