表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死に戻り治癒士は今度こそ相棒を救いたい〜身代わりで呪いを背負ったら、ヤンデレ化した狂犬騎士に重すぎる愛で溺愛監禁されました〜  作者: 水凪しおん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/15

第13話「朝陽の誓いとふたつの温度」

 地下の淀んだ空気が、一段階段を上るごとに澄んだ朝の冷気へと変わっていく。

 リアンの体は、エリアスの強靭な腕の中にすっぽりと収まっていた。

 歩みを進めるたびに、エリアスの胸板から規則正しい心音と力強い熱が伝わってくる。

 それはかつてリアンが呪いを引き受けていた時の、ひび割れた氷のような冷たさとは対極にある、確かな命の温度だった。

 石造りの階段を上りきり、重厚な扉を押し開けた瞬間、視界が真っ白な光に包まれる。


「眩しい」


 リアンは思わず目を細め、エリアスの肩に顔をうずめた。


「朝陽だ」


 頭上から降ってくるエリアスの声は、ひどく穏やかで、かすかに震えていた。

 王城の中庭には、すでに完全な夜明けが訪れていた。

 雲ひとつない青空から、黄金色の光が降り注ぎ、昨夜までの惨劇が嘘のように世界を明るく照らし出している。

 遠くから、慌ただしい足音と鎧が擦れる音が近づいてきた。

 異変が収束したことを察知した騎士団の本隊が、ようやく地下への入り口に到着したのだ。


「エリアス隊長」


 先頭を走ってきた副官が、信じられないものを見るように目を見開く。


「ご無事でしたか。魔力炉の暴走は……それに、リアン殿は」


「終わった」


 エリアスは足を止めることなく、短く告げた。


「首魁は討ち取った。魔力炉の浄化も完了している」


 副官が息を呑み、安堵の表情とともにその場にひざまずきかける。


「事後処理と残党の確保は任せる。俺たちは神殿に戻る」


「お待ちください。隊長もお怪我を……」


「俺の指示が聞こえなかったのか」


 冷気をはらんだ鋭い一瞥に、副官は言葉を飲み込み、慌てて道を空けた。

 エリアスは周囲の視線を一切気に留めることなく、リアンを抱きかかえたまま中庭を横切っていく。


「エリアス、僕はもう歩ける」


 リアンは周囲の騎士たちの視線に耐えきれず、小さな声で抗議した。


「下ろしてくれ」


「駄目だ」


 即座に返ってきた拒絶は、鉄の扉のように固い。

 エリアスの腕の力が、さらに強くなる。


「お前は魔力炉の呪いを直接引き受けたんだ。体がどうなっているか分からない」


「君と繋がったおかげで、呪いは完全に浄化されたんだ。どこも痛くないし、冷たくもない」


 リアンは証明するように、エリアスの首筋に自分の両手をそっと這わせた。

 彼の肌に触れたリアンの指先は、しっかりと温かい。


「ほら、嘘じゃないだろう」


 その温もりに触れた瞬間、エリアスの足がピタリと止まった。

 彼の青い瞳が、リアンの顔を間近で見つめ下ろす。

 長い睫毛がかすかに震え、その奥底に渦巻いていた張り詰めた感情が、ゆっくりと解けていくのが見えた。


「……あぁ」


 エリアスの喉仏が大きく上下する。


「温かい」


 まるで奇跡に触れるような、壊れ物に触れるような、ひどく優しい声だった。

 エリアスはリアンを下ろす代わりに、その温かい額に自分の額をすり合わせた。


「お前が生きている。お前の体温が、ここにある」


 吐息が混じり合うほどの距離で、彼の大粒の涙がリアンの頬にこぼれ落ちた。

 最強の騎士として誰よりも強く、誰よりも冷酷に敵を排除してきた男が、今、子供のように泣いている。

 世界を救ったことなど彼にはどうでもよくて、ただリアンが生きているという事実だけが、彼のすべてを満たしていた。


『ごめん』


 リアンは心の中でつぶやきながら、エリアスの背中に腕を回した。

 もう二度と、彼にこんな顔はさせない。


「泣かないで、エリアス」


 リアンは指先で彼の涙を拭い、微笑みかけた。


「僕はどこにも行かない。ずっと、君のそばにいる」


 その言葉を聞いたエリアスは、泣き笑いのような顔をして、リアンの唇に深く口づけた。

 朝陽に包まれた中庭で、二人の影がひとつに重なる。

 血と絶望の記憶は完全に塗り替えられ、ここから二人の新しい時間が静かに動き始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ