第12話「共鳴する魂と奇跡の光」
刃が肉を裂く嫌な音が、リアンの鼓膜を冷たく突き刺した。
エリアスの体がゆっくりと崩れ落ちる。
リアンは床に滑り込むようにして、倒れる彼を両腕で受け止めた。
彼の背中から、どくどくと温かい血が流れ出し、リアンの手を赤く染めていく。
「エリアス……嘘だ、嫌だ」
リアンの目から大粒の涙がこぼれ落ち、エリアスの青ざめた頬を濡らした。
「泣く、な」
エリアスの血に染まった手が、ゆっくりと持ち上がり、リアンの涙を拭う。
「お前が泣く顔は……嫌いだ」
掠れた声が、リアンの胸をナイフのようにえぐる。
男が背後で下品な笑い声を上げた。
「美しい愛の終焉だ。二人仲良く、呪いの灰となるがいい」
魔力炉が限界を超え、ひび割れた水晶から黒い光が漏れ出し始めた。
あと数秒で、すべてが爆発する。
だが、リアンはもう男の言葉にも、魔力炉の崩壊にも興味がなかった。
腕の中にいる、冷たくなっていくエリアスの体温だけがすべてだった。
自分を犠牲にすれば、彼を救えると思っていた。
一人で背負えば、彼を悲しませずに済むと思っていた。
それは傲慢な思い上がりだったのだ。
『僕の命は、僕だけのものではない』
エリアスが誓約を交わしたあの時、彼は確かにそう言った。
彼の命の半分は自分であり、自分の命の半分は彼なのだと。
「エリアス」
リアンはエリアスの冷たい唇に、自分の唇を強く押し当てた。
これは祈りではない。
二人の命を完全に繋ぎ合わせるための儀式だ。
「僕のすべてを、君に預ける」
唇を離し、真っ直ぐに彼の青い瞳を見つめ下ろす。
「だから、君のすべてを僕に預けて」
エリアスの瞳に、わずかな光が宿った。
彼がリアンの背中に腕を回し、最後の力を振り絞って抱きしめ返す。
「……あぁ。俺のすべては、お前のものだ」
二人の心臓の鼓動が、完全に重なり合う。
魂が共鳴したその瞬間だった。
リアンの体内に蓄積されていたどす黒い呪いが、内側から激しく沸騰し始めた。
黒い泥が反転し、純白の光へと姿を変えていく。
それは身代わりとなって引き受けるだけの欠陥魔法ではなかった。
互いの命を完全に委ね合い、愛と信頼で満たされた時にのみ発動する、真の癒やしの力だ。
「な、なんだこの光は」
男が怯えたように後ずさる。
リアンの体から溢れ出した眩い光が、地下の空間を太陽のように照らし出した。
光の波が魔力炉を包み込み、暴走していた黒い瘴気を一瞬にして浄化していく。
灰色のガラスが透き通るように、水晶は本来の美しい透明さを取り戻した。
「馬鹿な……私の呪いが、消えていく」
光の奔流に飲み込まれた男が、絶叫を上げながら塵となって消滅する。
広間に満ちていた死の冷気は完全に消え去り、代わりに温かな陽だまりのような熱が空間を満たしていた。
エリアスの背中の傷が、光に包まれて跡形もなく塞がっていく。
灰に染まっていた彼の髪も、本来の美しい白銀の輝きを取り戻した。
浄化の光が収まると、地下室には静寂だけが残された。
リアンは全身の力が抜け、エリアスの胸の上に崩れ落ちる。
「……終わった」
リアンが小さくつぶやくと、エリアスの力強い腕が彼を抱きしめた。
「あぁ、終わったな」
エリアスの声には、確かな熱と命の響きがあった。
二人の頬に、天窓から差し込んだ一条の朝陽が柔らかく降り注いでいた。




