第11話「限界の器と前世の残骸」
視界が明滅し、吐き気を催すほどの悪寒が全身を突き抜ける。
リアンの血管が黒く浮き上がり、肌の下を毒が這い回るのが見えた。
魔力炉に蓄積された呪いは、今まで引き受けてきたものとは桁が違う。
何百年もかけて地下に澱んだ怨念が、リアンの命を削り取ろうと牙を剥いていた。
「がっ……あぁぁっ」
歯を食いしばっても、凄惨な悲鳴が喉を裂いて漏れ出す。
膝から崩れ落ちそうになるのを、水晶にすがって必死に耐えた。
リアンの異変に気づいたエリアスが、弾かれたように振り返る。
男の防御壁を砕き割る直前だったエリアスの動きが、一瞬だけ止まった。
「リアン」
そのわずかな隙を、男は見逃さなかった。
「お前の相手は私だ」
男の杖がエリアスの腹部を激しく打ち据える。
鈍い音とともに、エリアスの長身が宙を舞い、石の壁に叩きつけられた。
「エリアス」
リアンが叫ぶ。
壁から崩れ落ちたエリアスの口から、鮮血が床に吐き出された。
だが、彼の傷だけではない。
魂の誓約を結んでいるリアンの体にも、腹部をえぐられるような激痛が走った。
逆に、リアンが引き受けている呪いの冷たさが、エリアスの体をも内側から凍らせているはずだった。
「ごふっ……」
エリアスが血を吐きながら、剣を杖代わりにして立ち上がる。
彼の白銀の髪は、半分以上が死の灰のような色に染まっていた。
青い瞳だけが、暗闇の中で獣のように飢えた光を放っている。
「邪魔だ、虫けらが」
エリアスは痛みを無視し、再び男へと突進した。
しかし、彼の動きは先程までのしなやかさを失い、明らかに鈍っていた。
男の放つ呪いの刃が、エリアスの肩を、太腿を、次々と切り裂く。
飛び散る血飛沫が、リアンの網膜に焼き付いた。
前世の光景が、鮮明なフラッシュバックとなって脳裏に蘇る。
『やめて』
血まみれになって倒れるエリアスの姿。
狂乱し、絶望に叫ぶ彼の声。
すべてを失ったあの冷たい朝の記憶が、リアンの心を黒く塗り潰していく。
自分が身代わりになればなるほど、彼は傷つく。
このままでは、二人とも死ぬ。
「手を、離せ……リアン」
エリアスが敵の刃を剣で受け止めながら、血反吐を吐くように叫んだ。
「これ以上は、お前が壊れる」
「駄目だ……離せば、王都が」
「王都など知るか」
エリアスが男の杖を力任せに弾き飛ばし、一歩だけリアンの方へ足を踏み出す。
「俺は、お前だけがいればいいと言ったはずだ」
その言葉は、悲鳴のように地下室に響き渡った。
エリアスの体が限界を超え、ふらりと大きく揺れる。
男が隠し持っていた短剣を引き抜き、無防備なエリアスの背中へ向けて振り下ろそうとした。
「やめろ」
リアンは水晶から手を離し、エリアスを庇うように飛び出した。
だが、体が呪いで重く、足がもつれる。
間に合わない。
鋭い刃が、エリアスの背中に深々と突き刺さった。




