第10話「地下の魔力炉と破滅の首魁」
王城の地下深く、重厚な鉄の扉を蹴り開けた瞬間、熱風がリアンの全身を打ち据えた。
巨大なドーム状の空間が、毒々しい紫色の光に照らし出されている。
空間の中央に鎮座するのは、王都の心臓部とも言える古代の魔力炉だ。
だが、その神聖なはずの水晶の柱は、泥のように粘り気のある黒い瘴気に覆い尽くされていた。
足元から伝わる微細な振動が、魔力炉が臨界点に達しつつあることを告げている。
空気がひどく重く、息を吸い込むたびに肺がザラザラと擦れるような不快感があった。
「遅かったな、王都の番犬ども」
魔力炉の基部に立つ人影が、嘲るような声を響かせた。
黒いローブを深く被った男の手には、禍々しい装飾が施された杖が握られている。
影の派閥の首魁だ。
男の足元では、すでに倒された数名の近衛騎士たちが血の海に沈んでいた。
「そこを退け」
エリアスが剣を構え、氷のように冷たい声で警告する。
男は可笑しそうに肩を揺らした。
「どくわけにはいかない」
男が杖を高く掲げると、魔力炉に絡みつく黒い泥が生き物のようにうごめく。
「この美しい王都が、悲鳴とともに崩れ落ちる瞬間を見届けなければならないのでね」
「狂人が」
短く吐き捨てると同時、エリアスの体が矢のように弾け飛んだ。
石の床が爆発したかのように砕け散る。
瞬きする間もなく男の懐に潜り込み、白銀の刃が首筋へ向けて薙ぎ払われた。
しかし、刃が男の皮膚に触れる寸前、見えない壁がエリアスの剣を弾き返す。
「ちっ」
エリアスが舌打ちをし、すぐさま後方へ跳躍した。
彼がいた空間を、黒い瘴気の刃が鋭く切り裂く。
防御壁ではない。
男の周囲には、高濃度の呪毒が圧縮された鎧のように張り巡らされていたのだ。
「無駄だ。私に触れれば、お前のその美しい肉体も瞬時に腐り落ちる」
男の杖の先端から、無数の黒い針が放たれた。
それは空気を切り裂く風鳴りを伴い、エリアスとリアンに向けて雨のように降り注ぐ。
エリアスが剣を風車のように回転させ、針を次々と弾き落とした。
金属音が連続して響き渡り、火花が紫色の空間を照らし出す。
「リアン」
背中越しにエリアスが叫ぶ。
「炉の浄化を急げ」
「わかった」
リアンは男の背後へと回り込むように駆け出した。
男がリアンに気づき、杖の矛先を変えようとする。
「よそ見をしている場合か」
エリアスが再び踏み込み、今度は防御壁そのものを力任せに叩き割ろうと剣を振り下ろした。
激しい衝撃音が響き、男の注意が完全にエリアスへと向く。
その隙を突き、リアンは魔力炉の基部へと到達した。
目の前にそびえる水晶の柱は、もはや本来の光を失い、どす黒い脈動を繰り返している。
『これを、全部……』
あまりの呪いの質量に、リアンの指先がかすかに震えた。
だが、迷っている暇はない。
リアンは両手を広げ、汚染された水晶の表面に手のひらを押し当てた。
直後、雷に打たれたような激痛がリアンの両腕を駆け上がった。
鼓膜を突き破るような轟音が脳内に響き渡る。
呪いの奔流が、リアンの小さな体を器にして、容赦なく流れ込んできた。




