表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

第9扉 サウナ

プロジェクトの追い込みがあり、今日は徹夜明けの朝。

着替えとシャワーを浴びるためだけに家へと戻った男は、猫に朝晩のエサを用意して早々に出ていった。



なんとか仕事をやりきって終電前に退社ができた男は転がる様な勢いで電車のドアへと滑り込む。

その勢いのまま、コンビニへと駆け込む。


缶ビール数本とつまみになる様な物、そして猫のご機嫌取りのチュールを買い込んで帰宅した。


家に着くと自室へと転がり込み、スーツを脱ぎ捨て、部屋着のスウェットに着替えて缶ビールを開ける。

プシュッと小気味いい音が部屋に響く。

それをぐいっと呷ると傍にいた猫をもふり始める。


猫は驚いて成すがままであったが、我に返ると男の腕に爪を立てて飛び出す。

猫の尻尾は逆立って、まるで狸の尻尾の様だ。

男はあはははっと笑い、缶ビールを再び呷るとそのままベッドへ大の字になって倒れこみ、そのまま寝てしまった。


そして、土曜日。


男は昼過ぎに目が覚めた。

疲れで眠ってしまったので、二日酔いにはなっていない。

気怠そうに頭を搔きながら身体を起こす。

そうすると猫が抗議をあげるようにまとわりついて鳴く、エサの催促だ。


時計を見ると13時を過ぎていた。

男はまだ覚醒しきっていない頭でどうするか悩んだが、やはり行くことに決めた。


部屋着から外出用の服に着替え、リュックサックに携帯用の道具一式を詰め込み、ハンドタオルと厚めのバスタオルを入れて扉へと向かった。


今日の扉は枝だけ取り除いた丸太が組み合わさったログハウスの様な印象だ。

取っ手は金属で出来ているが、持ち手の部分だけは木がかぶさっている。


そのシンプルに作られた扉を男は開けた。



その扉にくぐると、森林の様な香りが漂う部屋だった。

右の壁には全身鏡が貼り付いており、右の奥にはアナログの古い体重計が見える。

左には棚があり、その棚には四個の籠が並べられていた。


そして、正面の壁と棚の先の左奥に入り口と同じような作りの扉があった。


この部屋には窓がなく、建物の辺りの様子を伺うことは出来ない。

そこで男は少し迷ったが、正面の扉も開けることにして手を掛けた。


最初よりも重かったその扉を開けると、熱気と湿気が舞い込んで男にまとわりついてきた。

左奥には石造りのストーブの様な物があり、右手には座るにちょうどいいぐらいの段差があった。

その段の前と上にはマットが敷いてあるように見えたが、男は熱さに耐えきれず観察は程々にして扉を閉じる。


そして、もう一つの扉へと手を掛ける男。

こちらの扉はそれ程の重さではなかった。


すっと開くと青い鮮やかな空、そして広大な湖が目の前に広がる。

少し冷たい乾いた風が男の頬をくすぐった。

点在している高くない木々から見て、高原のような場所と感じる。


この建物の扉の脇にはサンラウンジャーの椅子が三脚並んでいた。

更にその隣には100L以上は入りそうな大型のタンクが設置してあり、テーブルの上には木のコップが並んでいる。

男はそのコップを手に取り、タンクから液体を少し入れてみた。

その液体の匂いを嗅いでみたり、少し舐めてみても『水』以上の感想が出なかった。


再び建物の中へと戻り男は少し考える、疲れが取れるならばと熱かった場所…つまり、サウナに入ってみることにした。


籠の中をのぞくとゆったり目の大きさで薄手の湯浴み着が入っている。

服を脱ぎ、入っていた湯浴み着に着替えてサウナへと足を踏み入れた。


敷物の上に腰を下ろし、砂時計を逆さにする。

砂時計が半分ぐらいになったところで熱気で身体中が汗ばんできた。


ふと熱さ調整用のストーブを見ると隣に瓶があり、その中に水が入っている。

その瓶には柄杓が立てかけてあった。


そうか、ロウリュ?とかいう物か…


男は柄杓を手に取り、水を汲んでストーブの熱せられた石に掛けた。

ジュワッという音と共に湯気が辺りに広がる。

湯気から微かにラベンダーの芳香も流れてきた。


熱気と芳香と沈黙が場を支配している。


そして、もう限界だ、と男が考えたとき、ちょうど砂時計の砂も落ち切っていた。


急いで外に出る男。

そのまま勢いで湖畔まで行き、サウナから持ってきた柄杓で水を浴びる。

爽快に感じた男はサンラウンジャーのひとつに寝そべり、空を見上げた。


こういう時を忘れてゆったり過ごす日もいいものだ。


そういえば…と、起き上がり、タンクからコップに水を出し、一気に飲み干す。

落ち着いたところで、男はよしと気合を入れ、サウナから水浴び、そしてサンラウンジャーでの休憩をもうふた回りした。


時間の使い方が優雅な日だなぁ…と思っていると、気づいた時には周りは薄暗くなっていた。

これはまずいと感じた男は急いで着替え、家への扉に戻っていく。

扉をくぐり、閉めようとしたところで頭上に何か通り過ぎるのを感じたが、そのまま意識は薄れていく。



男は気づくと自室のベッドで大の字になって寝ていた。

猫は出窓で薄目を開けて丸くなりくつろいでいる。


!?


真っ白なジュウシマツが猫の上でくつろいでいた。

猫は興味がないのか、放置している様子が逆に仲良く見える。


動物屋敷か?ここは…と少し悩んだが、来たものはしょうがないと諦める男。


時計を見るとまだ15時。

仕方ない、鳥のペット用品でも買いに行くかと不承不承の動きで出掛ける用意をする男であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ