第7扉 城
今日は予定通りの課内飲み会の日。
猫には最初から朝晩のエサを用意している、抗議を受けることはないだろう。
飲み会は二次会まで続いたが、それでも時間的にはあっさりと終わり、男は泥酔前で帰宅が出来た。
帰宅した男はベッドで丸くなって寝ている猫に近づくと背中を撫でる。
猫は特に嫌がることもなく、ちらりと横目で男を見やっただけで再び寝だした。
それを見届けた男はシャワーを浴びるために浴室へと向かった。
…翌日。
今日は土曜日。
二日酔いがなかった男は何事もなく朝に目覚めた。
朝食としてパンを焼き、その上にバターを塗って目玉焼きを乗せる。
それを齧りながらリュックサックを手に取り、昨日買ったコンビニのおにぎりやペットボトルを詰め込む。
タオルや着火バーナー、十得ナイフなども放り込んだ。
そうして準備が終わると扉の前に立つ。
今日の扉の様相は重厚な鉄枠の扉。
規則的に統一間隔で鉄鋲が打ち込まれており、中央に存在するドアノッカーはどこかの騎士の紋章をかたどっているのか威容を見せつける。
取っ手も金属で出来ており、左端に腕の大きさぐらいの長さの棒がコの字の形状で溶接してあった。
気圧されつつも男は少し力を入れて扉を開いた。
扉の先は北欧風の建物の廊下の様だった。
大理石の様なものが敷き詰められ、平滑で鏡の様な光沢がある廊下には赤い絨毯が敷いてある。
男は少し戸惑ったが、扉をくぐり抜けて廊下に降り立つ。
静寂に包まれたその空間は、少しヒンヤリとした冷たい空気が流れていた。
辺りを見渡す男。
白い壁に意匠の凝らした白い柱が一定間隔で続く。
廊下の先には同じような扉があることを確認が出来た。
廊下の中央、つまり絨毯の上を歩いて次の扉へと進む。
上等な絨毯がふわっとした感触で足音が全く響かない。男の呼吸の微かな音だけが廊下に響く。
そして、次の扉に到着した男。
今度は戸惑うことなく扉を開けた。
一陣の強い風が頬をかすめて通り抜ける。
広いホールに出た。
左に大きな門、右には意匠を凝らした手摺がある階段が見て取れる。
上を見てみると豪奢なシャンデリアが威容を放っていた。
造りからして玄関ホールらしい。
階段の先には先に続く廊下があり、その上には額縁が飾られていた。
そして、額縁の中の絵は太陽と山野が描かれている。
やはりというべきか人の気配はなかった。
階段を上がり、奥へと進む男。
その廊下は先程までの廊下とは少し変わり、縁が金色の意匠で彩られている。
所々で燭台や花瓶があり、それらには蝋燭の少し垂れた様子や花瓶に花が飾られており、定期的に手が入っているように見えた。
そして男は次の扉に到着する。
その扉は両開きで至る所に金色の金属をあしらう豪華さ、そしてその扉の左右の壁には龍らしき生物をモチーフとした紋章の旗が掲げられていた。
男は一度の深い深呼吸をして、扉を押して開く。
開けた途端、後ろによろけそうな程の強風が前面から吹き込んだ……かのように感じた男。
それほどの威厳が部屋の先から流れてきた。
その先を見ると一段上の場所に一際豪奢な椅子が鎮座している。
そう、そこは謁見の間だった。
その王座と言っても過言ではなさそうな豪奢な椅子は、得体の知れない生き物が座ってこちらを凝視している様な威圧感を放っており、
気圧された男は後ずさってゆっくりと扉を閉めた。
『まさか、動いていないよな?』
王座らしい椅子の後ろに飾ってあった大きな龍らしき絵の目がぎょろりと動いてこちらを凝視した様に見え、背筋に寒気を覚えた男。
この場から立ち去りたいと思って、早足で来た扉へと向かう。
通ってきた所にあった使われた形跡のある蝋燭も、花瓶の花も、窓から漏れ出る陽気な太陽の光さえも男には不気味に感じて、足が早まる。
這う這うの体で扉へとたどり着いた男は振り返ることもなく、扉の先へと飛び込んだ。
気が付いた男はなぜか自室のベッドの上で座禅を組んでいた。
背負っていたリュックサックはベッドに立てかけてある。
色々とおかしい…と混乱している男。
猫が寄ってきて、手を舐められると呆然として遠くに行っていた意識が戻った。
なんだったんだ…と、思いつつ時計を見るとまだ正午になったばかり。
焦燥感に苛まれたせいか疲れた男は昼寝をすることにして、思考を放り投げた。




