第5扉 浜辺
男が風邪を引いてしまっていた。
今日は有給休暇を使用して休むことにした様だ。
会社には鼻声で連絡を入れる。
それでも猫の世話は忘れない。
エサ入れにドライフードを入れて飲み水も変えると、早々にベットに潜り込む。
猫は食事もそこそこに男の枕もとで丸くなって寝ている。
そして、土曜日。
男は目が覚めると隣で寝ていた猫を撫でる。
寒気も鼻詰まりもなく、体調は戻った様だ。
体温計で熱を測ると平熱。
これならば…と起きて朝食を準備する。
『みぃー』
食べようとしたところで猫に餌の催促を受ける。
体調が回復して機嫌が良くなった男はいつもよりも高めの猫缶の蓋を開けて、エサ入れに放り込む。
いつになく勢いよく食べる猫。
そしてそれを見て、男は自分の朝食にも箸をつけた。
今日はいつもと違い、リュックサックを用意して飲食物と傘、そしてタオルを詰め込む。
その様な準備をして扉へと向かった。
今日の扉の様相はシンプルな木の扉。
戸板である木の板は縦に木目が入り、木目がそのままデザインとして機能している。
木の板は複数の板を横に並べて、一枚の戸板にと合板してあった。
取っ手は枝をそのまま意匠をこらさずにそのまま取り付けたように見える。
男はその取っ手を慎重に掴み、扉を開いた。
開いた途端に舞い込んできたのは潮の香り。
…そこに見えたのは白浜の砂丘と海だった。
日差しはサンサンと照り付けているが、湿気が少ないのか風は爽やか。
砂丘の砂は細かくて白い。
まるで南の海の海水浴場に来たような雰囲気だった。
気が抜けたように砂丘へと腰を下ろす男。
ざざーん、ざざーん、と波の音がメトロノームの様に一定間隔で流れる。
呆気に取られてぼけーっと過ごすと、お腹の虫が抗議の声を上げてきた。
ゆっくりとリュックサックから軽食として用意したコンビニのサンドウィッチと飲み物のコーラを取り出す。
寄せては返す波と水平線を見ながら、食事をとる男。
今回は冒険心がくすぐられず、座ったまままったりと過ごしている。
そろそろ帰るか……と、立ち上がったところで、遠くの海の方で波とは違う水しぶきが上がる。
目を凝らして水しぶきが上がった場所を注視する男。
そこには二頭のイルカらしき動物が何度もジャンプをして戯れていた。
それを見た男はほっと息を整え、改めて扉へと歩き出す。
向かう途中でヤシの実がどこからともなく転がってきたが気にも留めず、衣服についた砂を払ってから扉へと入り、男は…意識を失った。
男はベットの掛け布団の上で寝ていた。
目が覚めて隣を見てみると、猫が丸まって寝ている。
担いでいたリュックサックは何故か部屋の隅に置かれていた。
伸びをすると猫が反応し、エサを催促してくる。
窓から見上げた空は夕焼けの茜色に染まっていた。




