表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/14

第11扉 森

今日は朝から風が強い日だった。


厚い雲に覆われた空は今にも雨が降り出しそうだ。

テレビをつけ、天気予報を観ると午後から台風が来る予報。


それでも会社に向かわなければ…と支度をする。

猫と鳥にエサを用意してさぁ、出るぞと気合を入れて玄関まで来たところで携帯電話が震え出し着信を知らせる。


画面を見ると、メールが一通届いている。

それは会社の危険予知で、台風により出社停止を知らせる内容だった。


ほっと溜息をついた男は自室へと戻り、部屋着に着替える。

幸いなことに、冷蔵庫には食材が十分に揃っており、猫や鳥のエサの買い置きも問題ない。


思いがけない休暇だなと楽観視して家に籠ることにした。


先程用意したエサを食べる猫や鳥を見ながら、冷蔵庫を開け朝にもかかわらず、ビールでも一杯と缶を取り出す。

小気味いい缶の開封音と共に飲み口から泡が少し溢れ出した。

その泡をあわてて啜ってからダイニングテーブルの椅子に座る。


だらっと過ごしていると昼前から雨が降ってきた。

窓がガタガタと小刻みに震え、風が強くなってきたこともわかる。


テレビに目を移すと緊急の気象情報から昼過ぎに台風の中心が男のいる地域を抜け、徐々に天候が回復する様子を伝えている。

電車が各所で止まっている様子も駅からの中継で見て取れた。


経営陣の賢明な判断に乾杯…と二本目の缶を開けた。


そして、次の日。

今日は土曜日。

窓に視線を移すと台風明けで晴れやかな空が広がっている。


男は外出する服装に着替え、朝からコンビニへと向かった。

コンビニに着いた男は弁当やおにぎり、お茶を買い込む。


そうして買い物を済ませて家に戻ってきた男。

弁当をテーブルに広げ、朝食を済ます。


他に買ったおにぎりやお茶はリュックサックの中へ。

リュックサックには既に携帯用の道具一式が入っていた。

そして、更にタオルや替えの服を詰め込むと扉へと向かった。


今日の扉の様相はシンプルな木枠と木の板。

木目が綺麗で年季が入っているようには見えず、新品とも思える。

観音開きで双方に円形状で金属の取っ手がついている。


朝から活動的に行動した男は気分が良く、その勢いで躊躇なく扉を開いた。



扉から木の香りと強烈な湿気が流れ込んでくる。

木々の隙間からの光は弱く、辺りの暗さから鬱蒼としていた。


少し戸惑いながらも足を踏み出す男。

暗くはあるが、まったく見えない程ではないため、進むことにした。


幸いにして獣道が一本通っており、その道は草木を切り払わずに進めるぐらい踏み固めてある。

男は先に進む前にふと振り返った。

そうすると、猫と鳥がじゃれつきながら飛び出してくる。

猫は獣道に進まず右の方へ、鳥は左の方へと飛び立っていった。


前にもそういうことがあったしな…と考えた男は気にせず、獣道を通って奥へと進む。

ときどき『ガサッ』と何かが通る音に男はびっくりしたが、その度にシカやタヌキやリス、そしてエナガなどが顔を見せてきた。

それらを落ち着いて対処できる頃には周りを飛び回る鬱陶しい羽虫も気にならなくなる。


そうして男が辿り着いた先は広場の様な開けた場所。

数個の切り株があり、まるで人が休憩場所として使用していたようにも見えるところだった。

木が切られているせいで日の光も届き、この場所は明るい。


その切り株のひとつに腰を下ろす。

ひと息つくと、ちょうどそのタイミングで腹減っていることに気づいた。

リュックサックからコンビニで買ったおにぎりとお茶を取り出し、膝に乗せる。


そうすると、家から脱出していた猫がこちらに向かってくる、バッタの様な虫を咥えて。

『褒めて、褒めて』と言ってきそうな表情だったが、特に虫が好きでもない男は無視することにした。

しょんぼりとした様に見える猫は咥えてきた虫を離し、前脚でつつくように遊んでいた。


おにぎりのビニールを開き、頬張っていると、そこから更に鳥がこちらに向かってきた。

地面に降りると何かをついばんでいる。

よく見るとタンポポの様だ。


それらをぼーっと見ていると、途中で会った動物たちも集まってきた。

シカは草を食み、リスは枝の上で木の実を齧っている。

エナガは五羽ほど枝に止まり、寄り添っていた。


食べ終わった後も男はぼーっと動物たちを見ていた。


しばらくすると突然、動物たちは散っていく。


ハッと我に返る男。

ゾクッと背中に冷たい汗が流れ、何となく不穏な空気を感じる。

木漏れ日は明るかったが、寒気が気になり帰ることにした。


元に来た獣道に沿って家路を急ぐ。


扉までもう少しというところまで男は辿り着く。

遠くに見えた扉に猫と鳥が入っていくのが見えた。


突然、横から『ガサガサッ』と大きな音が聞こえた。

物音に視線を移す。


!?


そこには大きなクマが居た。

体長二メートルを超えていそうな大きさで威圧感が凄い。

クマは静かに男を見下ろしている。


男は焦りながらも必死の形相で扉まで駆け込んでいく。

少し距離があったが、なんとか滑り込むように扉へと飛び込む。

そして、男は意識を失った。



男は目を覚ます。

自室のベッドでうつ伏せになって寝ていた様だ。

猫は隣で毛繕いをしている。

鳥は本棚の上で同じく毛繕いをしていた。


ほっと一息をつくと起き上がり、時計を見て時間を確認する。

夕方だった。


なんとか気を取り直して猫と鳥にエサを準備し、出掛ける支度をする男。

今日はひとりでいる気分にならず、外食することに決めた男は玄関へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ