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第10扉 空

今日は平凡と言って差し支えのない日だった。


早起きしわけでも、遅刻しそうになったわけでもなく、いつもながら満員の通勤電車に乗り込み、職場に着く。

午前に資料の最終チェックをして、午後の会議に臨む。

会議での内容は若干荒れたが、大幅な見直しがあるわけでもなく作業事項が決定していく。


見直し分の仕事量が増えて残業することになったが、許容範囲内だ。


まだスーパーマーケットが開いている時間に退社できて、店に寄る。

自分のご褒美のプレミアムビールとは別に猫にチュール、鳥にはたまたま見つけた茹で済みのトウモロコシを買って帰ることにした。


男は帰宅すると部屋着に着替え、猫と鳥にご褒美のエサを与える。

少し食べているところを見て、落ち着いてから缶ビールを開け、買った惣菜をテーブルに並べた。


ゆっくりと晩酌をする男。

テレビをつけ、インターネットの動画配信サイトを映す。

お気に入りの料理動画を観ながら二本目の缶ビールを開けた。


晩酌を終えた男はシャワーを浴び、就寝した。



そして、翌日。

今日は土曜日だ。


朝早めに起きた男はエサをせっつく猫と鳥にドライフードを出す。


部屋着から外出するための服に着替え、リュックサックに飲食物や携帯用の道具一式を詰め込む。

タオルや折り畳み傘、それに先日インターネットで購入したトレッキングポールも用意した。


そして、扉の前に立つ男。


今日の扉はいつもと様相がまったく違う。

一見、白い綿に見える物で覆われており、取っ手の部分は雲にも鳥をかたどった様にも見える不思議な意匠だ。

その取っ手を触ってみる男。

手触りは最初ふわっとした柔らかい感覚であったが、芯の部分は意外と固く、戸惑いながらも扉を引いて開いた。



冷たい空気が流れてくる。

身体の前面すべてに風を受け、それを感じ取る男。


足元から先の方まで見渡すと、綿が敷かれた様な地面に青一色の空。

その空には雲ひとつない。


おっかなびっくり片足を下ろすと固いようであり柔らかいようである不思議な感覚の地面がある。

その片足を軸にもう片方の足も下ろす。

問題なく立てた男。


綿に見えたものは靄らしい。

薄っすらと自分の履いた靴が見える。

次の場所に片足を踏み込むが、同じような感触だったため歩けると思い、先に進むことにした。


問題なく歩けていることが分かり、先に先にと進む男。

しかし、この場所には来た扉以外は何もなく、扉が遠ざかる以外に進んでいる感覚がない。


何もすることがないので、とりあえず行けるところまで行こうと足を動かす。


しばらく進むと、先の方にこの地面の切れ間の様なものが見えた。

その切れ間に近くまで来た。

そして、男は切れ間を覗き込む。


あっ…と息をのむ男。


その切れ間から遠くの方に地面らしきものが見て取れる。

森や湖、そして川や海が見えた。

それらはまるでミニチュアの模型の様だった。


ここは上空だったのか!


男はそれを認識すると足が震え、腰を抜かして尻餅をついた。

下から上に吹いた一陣の風に誘われて空を見上げると、十羽に満たない数のウミネコらしい鳥が飛んでいるのが見えた。

『ミャーミャー』と鳴き声が会話している様にも聞こえる。


それを見て心の整理をして落ち着く男。

今来た道を辿って帰れば大丈夫だ…と考え、いっそのこと、この状況を楽しもうかと切り替える。


考えを切り替えたところで『ぐるる』とお腹が鳴った。


そこで思い出したのはリュックサックの中身。

ペットボトルのお茶とサンドウィッチがあった筈。

リュックサックを肩から降ろし、中身をまさぐると一本のお茶と三つのサンドウィッチを見つけることができた。


そのひとつを頬張り、お茶で胃へと流し込む。

そうしてゆっくりと過ごすと心に余裕が出てきた。


そのままサンドウィッチを食べきり、ぼーっと過ごす男。


しばらく時間が経ったところで、よしっと気合を入れて立ち上がる。

もう帰ろうか、と扉へ歩みを進める。


特に問題なく扉の前まで辿り着く。

頭上ではウミネコが大きく旋回しており、扉の中には猫が座って待っていた。


何故かな?と頭に過ぎったが、考えても埒が明かないと思い直して扉をくぐる。

気を失う直前で『ミャー』と鳴き声が聞こえた気がした。



気が付くと男は自室のベッドの上で座禅を組んでいた。

隣には猫が箱座りをしており、更にその横で鳥が座っていた。


窓の方に視線を移すと真っ暗。

時計を見ると21時を過ぎている。


男は慌てて猫と鳥にエサをやり、自分の夕飯用にとコンビニへ買い出しに向かった。

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