第1扉 花畑
男は疲れていた。
金曜日の仕事上がり、上司に声を掛けられて飲みに行くことに。
そこには苦手である陽気な体育会系のメンバーが揃っており、散々付き合わされて家に着く頃には泥酔と疲労の極致。
男はスーツも脱がず、泥の様に眠りについた。
そんな最低の気分で迎えた土曜日の昼。
ようやく目が覚めた男は気怠そうにあくびをしながらも着替えて扉の前に立つ。
今日の扉の様相は洋風で扉板には色とりどりの花があしらわれている。
蝶番や取っ手は金で出来ており、きめ細かでそれでも開け閉めするには邪魔にならない丁寧な作りだった。
男はその扉の取っ手を引き、開ける。
その先には一面の花畑。
そして所々、一定間隔で木が生えている。
その木はまるでガゼボのように休憩しやすい配置になっていた。
男は扉を抜け、花畑に足を踏み入れた。
花の甘い香り、そして暖かで優しさに包み込まれるような風が吹き抜ける。
その風はまるで男を歓迎している様だ。
男は尚も進んでいく。
…が、金曜日の疲れが抜けていないのか、呼吸が荒くなる。
男は足を止める。
木が生えており、その根元はちょうどいい木陰となっていた。
その木陰で座り込むと滲んだ汗が爽やかに乾くような一陣の風が吹き抜ける。
視線を横へと逸らすと手の届く位置に筒状の花が見えた。
その花は蜜に満ちており、まるでグラスと満たされた飲み物の様だ。
男がその花に手を伸ばし、花を摘む。
まるでそれが何か知っていたように自然に口をつける。
蜜酒だった。
上品で控え目な甘さと香り、軽いアルコール感、そして、疲労を取り除くような安堵感が芽生える味。
ゆっくりと飲みながら、何を考えることもなくぼーっとしている男。
そうしているとどこからか数十匹の動物が視線の先に躍り出てきた。
うさぎ?きつね?たぬき?鹿?馬?日本にいた似た様な色々な種類の動物たちが戯れている。
踊ったり、アクロバットな運動を見せたり…と、まるで男を楽しませるかのような行動を取る動物達。
男はそれを見ながらゆっくりとしていると眠気が差したのか、うつらうつらと寝入ってしまっていた。
男は徐々に意識が覚醒し、伸びをしながら起き上がる。
そうすると辺りは暗くなっており、動物達も既に居なくなっていた。
花畑は星と月明かりで照らされている。
その様子は日本の田舎…山奥の暮らしにいるよう。
月はひとつで星々も無数に輝いている。
その星々の配置は日本とはまったく異なっているが。
しばらく男はぼーっとしていたが、急に思い出す。
あの扉はどうなっているか?と。
男は跳ね起き、まずいと思って急いで扉の場所へと戻る。
その進んで来た道は両脇の花が綺麗に光っていることにも目を止めず、一目散に。
男はほっと息をついた。
ついたその場所には扉が開いたまま整然と佇んでいたから。
扉の様子からまだ時間に余裕があることを知った男は扉を背に向け、その世界を見渡す。
今日は綺麗な世界だったなと感慨深げに深呼吸をした。
しばらくそうして見渡した後、静かに扉に入り、家へと戻る。
扉が消えてしまい、いつの間にか自室にいる男。
この現象はいつものことと気を止めず、一息つく。
時計を確認すると土曜の夕方だった。
食事はどうするか?と考えながら、男は日常へと戻っていった。




