【セラフィム・アルテミス ルート】第1話
出会いから数日後——
また、図書館にピアノの音が響いていた。
授業の後、私は自然とその音に惹かれて、音楽室へ向かっていた。
そこには、セラフィムがいた。
「……あ」
彼は、私に気づいて演奏を止めた。
「ごめんなさい、また邪魔を……」
「……いえ」
セラフィムは、小さく首を振った。
「……来てくれて、嬉しい」
「え……?」
「あなたがいると……音が、綺麗になる」
彼の青い瞳が、じっと私を見つめる。
「……座って、ください」
言われるまま、ピアノの隣に座る。
セラフィムは、再び演奏を始めた。
その音色は——
美しくて、でも、どこか悲しい。
「……綺麗、ですね」
「……ありがとう」
演奏が終わると、セラフィムは私の方を向いた。
「……あなたは、優しい」
「え……?」
「僕の音楽を、綺麗だと言ってくれる。……それだけで、救われる」
彼の声は、か細い。
「……僕は、ずっと一人だった」
「セラフィムさん……」
「貴族の落胤。誰からも必要とされない存在」
彼は、自分の手を見つめた。
「でも、音楽だけは……僕を裏切らなかった」
「……」
「だから、ずっとここにいる。人と関わらず、音楽だけと」
そう言って、彼は私を見た。
「……でも、あなたは違った」
「……?」
「僕を、人として見てくれた。……初めて、誰かと話したいと思った」
セラフィムの目に、涙が浮かんでいる。
「だから……また、来てくれますか?」
その問いは、まるで——
願いのようだった。
私は、頷いた。
「……はい」
セラフィムは、ほんの少しだけ、微笑んだ。
それから、私は毎日図書館へ通うようになった。
セラフィムの音楽を聴くために。
そして、彼と話すために。
「今日は、どんな曲を弾くんですか?」
「……あなたのために、作った曲」
「え……?」
「あなたの音を、曲にしたんです」
セラフィムは、演奏を始める。
その曲は——
優しくて、温かくて。
「……素敵」
「……良かった」
彼は、嬉しそうに微笑んだ。
でも、その笑顔の奥に——
何か、影が見えた。




