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2章 軽々しいごめん
あの日のことを、僕はいまでも覚えている。
何気ない日常の中で、僕は君を苛立たせた。
ほんの些細なことで、君の表情が曇った。
周りに合わせる僕の癖が、また君の目に触れてしまったのだろう。
気まずくなった僕は、反射的に口をついて出た。
「ごめん」
軽い調子で。
深く考えもせず、ただその場をやり過ごすために。
僕がいつも使っている“魔法の言葉”のように。
その瞬間、君は僕を見た。
まるで「やっぱりね」とでも言うような、寂しげな瞳で。
それから、君は僕に絡まなくなった。
声をかけても、返事は必要最低限。
笑ってごまかそうとしても、視線を逸らすだけ。
軽々しい「ごめん」の一言が、君との間に大きな溝をつくった。
でも、そのときの僕は気づいていなかった。
“ごめんなさい”は、責任を持って言わなければならない言葉だということを。
ただ、子供の僕は――失ったものの重さを、まだ理解できていなかった。