1章 君との出会い
教室のざわめきの中で、僕はいつものように笑っていた。
本当は面白くもないのに、みんなに合わせて声をあげる。
そうすれば嫌われない。そうすれば仲間外れにならない。
小学生の僕は、そんなふうに“空気”を読むことばかりに必死だった。
でも、君だけは違った。
僕が笑うたび、君は冷めた目で僕を見ていた。
「また、合わせてる」
小さな声でそう呟いた君の言葉が、なぜだか耳に刺さった。
そのとき僕は、君を嫌った。
僕の“仮面”を見抜くみたいなその瞳が、苦しかったからだ。
でも、同時に君のことが気になり始めた。
どうして、君はみんなに合わせないんだろう。
どうして、あんなに真っ直ぐな目でいられるんだろう。
――それが、僕と君との出会いだった。
放課後の教室。
僕は、みんなと一緒に流行りの遊びに参加していた。
笑顔を作って、声を合わせて、楽しいふりをする。
でも、胸の奥はいつも空っぽだった。
ふと視線を向けると、窓際に座る君がひとり、本を読んでいた。
輪に加わろうとせず、誰に気を使うでもなく。
その姿は、僕の居場所のなさを突きつけるようで、思わず苛立ちを覚えた。
「なんで参加しないの?」
僕は思い切って声をかけた。
すると君は、ページから目を離さずに答えた。
「だって、楽しくないことを楽しいって言うの、嘘でしょ」
その一言に、息が詰まった。
僕が普段からやっていることを、君はあっさりと切り捨てたのだ。
「嘘でもいいんだよ、みんなが仲良くできるなら」
そう返した僕に、君は初めて顔を上げた。
「僕は、そういうの嫌い」
真っ直ぐな瞳に射抜かれて、言葉を失った。
そのとき初めて、心の奥がざわついた。
怒りでも、悲しみでもない、もっと複雑でどうしようもない感情。
――この日を境に、僕と君の距離は少しずつ縮まり、そして離れていくことになる。