06 不意打ち
「那子、一緒に帰ろう」
聖君が迎えに来た。
あの雨の日から、私たちは一緒に下校することが多くなっている。
聖君はHRが終わった後に、一緒に帰ろう。
…と言うわけではなく、いつも靴箱の側で待っていて、一緒に帰ろう。と言ってくるのです。
それが、慣れたのか分からないけど、私の生活の流れの一部となった。
だけど、今回は違った。
HRが終わった後に、一緒に帰ろう。と、言ってきたのだから。
だけど、私には先約があった。
聖君には悪いけれど……。
「あ、ゴメンね。これから、先生の手伝いしなきゃいけないから」
「俺もやる」
「一人でも大丈夫だよ」
「俺もやる」
…聖君って、以外に頑固なのかな?
「じゃあ、鞄置いて科学室に行こう」
「科学室?…まさか、アイツの手伝い?」
「そうだよ……?」
「やっぱり、俺がやる」
「えっ!?いや、私の仕事だから、ね!」
そんなこんなで、聖君と一緒に科学室へと向かった。
「遅かったじゃないかー、那子ちゃん…と、その犬」
「誰が犬だって?あ゛ぁ゛?」
「もう、最近の若者は物騒だなぁ」
この人は理科系の教科担当兼3-Aの担任を受け持っている、神林 耀先生。
先生は加奈ちゃんの遠い親戚です。
そして私は先生の助手なのです。
聖君は先生の事が嫌いみたいだけど、なんでだろう?
「先生、何か手伝って欲しい事、って何ですか?」
「あぁ、コレを資料室に運んでくれないかな?」
〝コレ〟とは、大きい段ボール箱2つと、プリントの束だった。
「俺、これ持つから、那子はそれ持って」
「え、でもっ……」
そう言って、聖君は段ボール箱2つを抱えると、さっさと行ってしまった。
「あいつにも、心があったんだねぇ」
先生はしみじみと、そう言った。
「…え?」
「いや、こっちの話だよ」
「じゃあ、これ持って行きますね」
「お願いするよ。適当なところに置いてくれて良いから」
適当って……。
「はい」
とりあえず、返事はしておいた。
「聖君!」
「那子、それ重くない?量、多いけど……」
「聖君の方が重いでしょ?少し持つよ?」
「大丈夫。それに、那子が持つと危なっかしい」
「…そうだね」
私は否定しないで、そのまま聖君に持ってもらうことにした。
中学校の頃、私は無理して重たい物を持って、階段を踏み外したことがある。
それで、加奈ちゃんに注意されたことがあったからだ。
聖君は階段を下りていく。
急いで聖君の隣に行こうとして、小走りになった。
そうしたら、
「キャッ……!」
「…っ!」
私は何かに躓いてしまった。
―やばい、落っこちる……!
ドサッ、バサバサッ、ガンッ……!
何故か、痛みは無かった。
恐る恐る、目を開けてみる。
辺りには私が放ったプリントの束や、聖
君が持ってた段ボール箱が撒き散らされていた。
じゃあ、聖君は……?
「……?」
「…っ痛ぅ」
聖君は私を庇うようにして、抱きかかえていた。
勢いで踊り場の壁にぶつかったらしい。
「か、庇ってくれたの!?」
「大丈夫か?」
「大丈夫…って、聖君怪我してるよ!?」
怪我は大したことはなさそう。
でも、聖君の手には掠り傷だけど、血が滲み出ていた。
あとは、壁に背中を強打したに違いない。
少し、顔を顰めているし、私、結構体重あるし……。
「保健室いかないと……」
「いや、大丈夫。手は舐めときゃ治るし」
「手はいいかもしれないけど、背中が……」
「それより、那子。今にも泣きそうな顔すんなよ」
「だって……」
聖君は短く溜息を漏らす。
「大丈夫だ、って言ってんだろ」
そう言って、私の額に自分の唇を近づける。
「いいか?俺はキスできるくらい元気なんだから、大丈夫だって」
「…………」
無理をしているのは、目に見えているのに……。
聖君は私を心配させまいと、無理しているみたいだ。
…でも、キスは無いでしょ!?
「ほら、立てよ」
聖君は私の手を取って、立たせてくれた。
それから、2人で散らばったプリントを集めた。
段ボール箱の中身は幸い、割れ易い物は入っていなかった。
その代わり、ガラクタばかりだったけど。
「行くか」
聖君は段ボール箱を持って、言った。
「うん」
さっきよりも、何だか聖君は歩くのが速くなっている。
そこで、気がついた。
聖君の顔が赤いことに……。
「聖君!」
「何?」
返事はしてくれたものの、聖君は振り向いてくれない。
きっと、まだ赤いんだろうな……。
私は聖君のところまで駆けて行く。
転ばないように注意しながら。
そして、
「ありがとう」
言って、唇を聖君の頬に寄せた。
「先に行ってるからねっ」
「…………」
私は赤面しながら、資料室まで走った。
後に、耳まで赤くなった聖君を残して……。
私だって、恥ずかしいよっ!
聖はその場にへたり込んだ。
「…~今のは反則だろっ」
那子に、不意打ちされてしまった。
まさか、あのタイミングでキスされるとは……。
どうしよう。
俺は那子のことを、好き過ぎてる……。
「あ~ぁぁー。青春っていいなぁー」
その一部始終を、影で見ていた教師がいた。
「そろそろ、結婚しようかなぁ……」
そして、そんなことをぼやいていた。
階段から落ちるシーンを書きたかった。
そして、不意打ち…。
前回もやりましたよね(;´∀`)
那子の体重が乗っかって、かなり背中を強打したんだよ、聖は!
軽いはずなんだけどなー。(;´∀`)




