46 それは人生の上で、点でしかない
本日、3月1日。
全国の殆どの高校は、卒業式である。
全国の殆どの高校3年生は、卒業である。
そして、俺が担任をしている、白桜高校3-Aも。
「先生ー、一年間ありがとーっ!」
「センセッ、皆で写真撮るから入ってぇー!」
「先生のお陰で、毎日が楽しかったよ~!」
卒業式と最後のSHRも終え、生徒達から賞賛の声を掛けられているのは、
「いえいえ、こちらこそ、あんがとよ~」
「お、じゃあ俺センターねッ!」
「俺も毎日幸せだったぜ~」
律儀にも、全ての言葉に返事をしている、神林耀だった。
「あ、そうだ。女子ー、集まれーっ!」
何だ、何だ、と女子が耀の周りに集まってきた。
「先生!全員食っちゃう気ですか!?」
「最後の最後に、そりゃ無いぜ、先生っ!」
男子からのブーイングに、耀は「違うっつーの!」と、叫びながら、
大きな鞄からごそごそと、何かを取り出した。
「ジャーンッ!ちょっと早いホワイトデー!」
耀は言うと、女子からの歓声を一身に集めた。
「さっすが先生!」
「しかも食べ物じゃなくて、残るものっていうのがサイコーッ!」
「これブランドものじゃん!」
「先生、お金持ちー!」
「超大切にするね!」
女子が狂喜乱舞している中、耀は、
「喜んで貰えて良かったよ」
と、笑顔を振り撒いていた。
しかし、男子からのブーイングはまだ続く。
そこで耀が取った行動が、
「男諸君よ!」
男子に向かって、叫ぶような大声を上げ、
「俺たちは、物で繋がるような関係じゃないっ!」
誰もが黙って、耀を見つめる中で、
「ここで繋がっているじゃないかっ!」
立てた親指で、自身の心臓を指し示した。
一瞬、時が止まったかのように、教室が静まり返り、
それが無かったかのように、男共の歓声が上がった。
しかし、女子はその言葉に反感を持ったらしかった。
私たちは物で繋がっている関係なのね、と……。
それをフォローするような一声を掛けつつ、
「ほら、もう解散だ!散れ、散れ!」
と、突き放すような言葉も発した。
時間が時間なので、生徒達もさっさと教室を出て行った。
耀はその中で埋もれそうな少女を見つけ、話しかけた。
「麻衣ちゃん」
「はっ、はいっ!!」
「ちょっと、いい?」
「はいっ…!」
ちょっとした会話を交わしただけなのに、麻衣の頬が赤くなった。
そして、その会話の間に、教室には耀と麻衣だけになった。
「バレンタインのときの、チョコ美味しかったよ」
「あ、ありがとう、ございますっ」
「それから、……」
耀が目を閉じ、一瞬、間を置いた。
「気持ちは嬉しいけど、ごめんね。応えられない」
「…………」
先ほどの静寂とは、全く違う静けさが、辺りを漂った。
「な…んで、ですか?」
「……ごめんね」
「まだ、子供だからですか?」
「君は、…君たちは、小さいけど、もう大人だよ」
麻衣の声が、だんだん嗚咽混じりになった。
「他の、子より、か、可愛くないからですか?」
「君は十分魅力的だよ。それに、皆個性があるんだから、他の子と比べちゃいけない」
「じゃあ、なっんで、です、か…?」
「好きな子が、いるんだ。ごめん…、ごめんね」
耀のどの言葉も、麻衣にとっては胸に突き刺さっていたが、
耀はどこを見るでもなく、何を思っているのか、遠くを見つめるような瞳をしていた。
呼吸が落ち着いてから、麻衣は言った。
「先生、私ね。
ふられるって解ってても、心の奥では期待してて、
少しでもある可能性に賭けてみようって思って……」
それを、耀は静かに聞いている。
「でも、先生のこと好きになれて良かったと思うの。
先生、ありがとう」
耀は麻衣の言葉に驚きながらも、言った。
「俺なんか、お礼を言われる程の人間じゃ、ないんだよ。
お礼を言う相手は、誰かを好きになれる、麻衣ちゃん自身だ」
麻衣も、耀の言葉に戸惑いながらも、微笑んだ。
そして、気になっていたことを聞く。
「先生、好きな子って、誰ですか?」
耀は軽く微笑みながら言う。
「君よりもまだ幼くて、可愛げのない子だよ」
「え……?」
麻衣が抱いた疑問には一切触れず、耀は言った。
「麻衣ちゃん。好きになってくれて、ありがとう」
その言葉を境に、2人は別れた。
やっと更新!
左目が0.3という残念な視力の為、しばらく更新しませんでした!
というのは、いい訳です。はい。
嘘ではないよ!
季節感0ですけども、説明も殆どない話でしたけど、
色々と察していただければ嬉しいです。




