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純粋少女と不良少年  作者:
不安 と 黄昏
47/51

46 それは人生の上で、点でしかない







本日、3月1日。

全国の(ほとん)どの高校は、卒業式である。

全国の殆どの高校3年生は、卒業である。

そして、俺が担任をしている、白桜(はくおう)高校3-Aも。


「先生ー、一年間ありがとーっ!」

「センセッ、皆で写真撮るから入ってぇー!」

「先生のお陰で、毎日が楽しかったよ~!」


卒業式と最後のSHRも終え、生徒達から賞賛の声を掛けられているのは、


「いえいえ、こちらこそ、あんがとよ~」

「お、じゃあ俺センターねッ!」

「俺も毎日幸せだったぜ~」


律儀(りちぎ)にも、全ての言葉に返事をしている、神林(かんばやし)耀(よう)だった。


「あ、そうだ。女子ー、集まれーっ!」


何だ、何だ、と女子が耀の周りに集まってきた。


「先生!全員食っちゃう気ですか!?」

「最後の最後に、そりゃ無いぜ、先生っ!」


男子からのブーイングに、耀は「違うっつーの!」と、叫びながら、

大きな(かばん)からごそごそと、何かを取り出した。


「ジャーンッ!ちょっと早いホワイトデー!」


耀は言うと、女子からの歓声を一身に集めた。


「さっすが先生!」

「しかも食べ物じゃなくて、残るものっていうのがサイコーッ!」

「これブランドものじゃん!」

「先生、お金持ちー!」

「超大切にするね!」


女子が狂喜乱舞している中、耀は、


「喜んで貰えて良かったよ」


と、笑顔を振り()いていた。

しかし、男子からのブーイングはまだ続く。

そこで耀が取った行動が、


「男諸君よ!」


男子に向かって、叫ぶような大声を上げ、


「俺たちは、物で繋がるような関係じゃないっ!」


誰もが黙って、耀を見つめる中で、


「ここで繋がっているじゃないかっ!」


立てた親指で、自身の心臓を指し示した。

一瞬、時が止まったかのように、教室が静まり返り、

それが無かったかのように、男共の歓声が上がった。


しかし、女子はその言葉に反感を持ったらしかった。

私たちは物で繋がっている関係なのね、と……。


それをフォローするような一声を掛けつつ、


「ほら、もう解散だ!散れ、散れ!」


と、突き放すような言葉も発した。

時間が時間なので、生徒達もさっさと教室を出て行った。


耀はその中で埋もれそうな少女を見つけ、話しかけた。


「麻衣ちゃん」

「はっ、はいっ!!」

「ちょっと、いい?」

「はいっ…!」


ちょっとした会話を交わしただけなのに、麻衣の頬が赤くなった。

そして、その会話の間に、教室には耀と麻衣だけになった。


「バレンタインのときの、チョコ美味しかったよ」

「あ、ありがとう、ございますっ」

「それから、……」


耀が目を閉じ、一瞬、間を置いた。


「気持ちは嬉しいけど、ごめんね。(こた)えられない」

「…………」


先ほどの静寂(せいじゃく)とは、全く違う静けさが、辺りを漂った。


「な…んで、ですか?」

「……ごめんね」

「まだ、子供だからですか?」

「君は、…君たちは、小さいけど、もう大人だよ」


麻衣の声が、だんだん嗚咽(おえつ)混じりになった。


「他の、子より、か、可愛くないからですか?」

「君は十分魅力的だよ。それに、皆個性があるんだから、他の子と比べちゃいけない」

「じゃあ、なっんで、です、か…?」

「好きな子が、いるんだ。ごめん…、ごめんね」


耀のどの言葉も、麻衣にとっては胸に突き刺さっていたが、

耀はどこを見るでもなく、何を思っているのか、遠くを見つめるような瞳をしていた。



呼吸が落ち着いてから、麻衣は言った。


「先生、私ね。

 ふられるって解ってても、心の奥では期待してて、

 少しでもある可能性に賭けてみようって思って……」


それを、耀は静かに聞いている。


「でも、先生のこと好きになれて良かったと思うの。

 先生、ありがとう」


耀は麻衣の言葉に驚きながらも、言った。


「俺なんか、お礼を言われる程の人間じゃ、ないんだよ。

 お礼を言う相手は、誰かを好きになれる、麻衣ちゃん自身だ」


麻衣も、耀の言葉に戸惑いながらも、微笑んだ。

そして、気になっていたことを聞く。


「先生、好きな子って、誰ですか?」


耀は軽く微笑みながら言う。


「君よりもまだ幼くて、可愛げのない子だよ」

「え……?」


麻衣が抱いた疑問には一切触れず、耀は言った。


「麻衣ちゃん。好きになってくれて、ありがとう」


その言葉を境に、2人は別れた。











やっと更新!

左目が0.3という残念な視力の為、しばらく更新しませんでした!

というのは、いい訳です。はい。

嘘ではないよ!


季節感0ですけども、説明も殆どない話でしたけど、

色々と察していただければ嬉しいです。

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