43 ほろほろと
2月のある日。
放課後の、俺と那子しかいない図書室でのことだった。
「はい、聖君」
突然、那子は俺の前に〝何か〟を突き出した。
〝何か〟とは、きれいにラッピングのされたものだった。
「あ、ありがとう、ございま、す…、じゃなくて、何故?」
「〝何故?〟って、こっちが何故?」
「今日、家庭科なんてあったか?」
「ないけどー?何で?」
那子は不思議そうに聞く。
まるで俺が変人か何かのようだ。
料理したり、こういう風にラッピングしたりって、家庭科の授業であったじゃないか。
今日はその日じゃないのか?
いや、でも、俺と那子は同じクラスなのに、俺は一切、家庭科があることを知らなかったぞ?
先日だって、こんなことやらなかったし……。
じゃあ、何でだ?
「いや、このきれいなラッピングに包まれたコレは何ですか?って……」
「…もしや聖君、バレンタインデーという日を知らないね?」
バレンタインデー。
イギリスだったかアメリカだったかのバレンタインさんが、
ビジネスの為に男が女に花束やプレゼントを贈る日だったっけ?
いや、違うな。
どうだったっけ……。
別に、そんな雑学は必要のないものだけれど、たまに執拗に気になることがあるよな。
って、そういう話じゃない。
「いや、あれだろ?女子が男子にチョコをあげる日だったっけ?」
「そうだよ。好きな人にチョコレートだったりをあげる日だよ」
「でも、それっていつだ?」
「今日だよ、聖君」
「え、マジで?」
バレンタインが2月、っていうのは覚えている。
しかし、日付までは覚えていない。
毎年、そんなに気にしていなかったし、貰ったことないし……。
貰えなくても何とも思わないし……。
そもそも、俺は甘いものが嫌いだ、という設定がある。
設定も何も、甘いものは苦手である。
「聖君、知らなかったんだー。折角、私作って来たのになー。楽しみにしてると思ったのになー」
「仕方ないだろ、俺甘いもの苦手だし」
「甘いものを貰うとも限らないでしょ?物かもしれないんだし」
「え、じゃあコレ、物系?」
「食べ物系、しかもチョコレート系」
「何だよ、違うのか」
物だったら家宝にしようと思ったのに、残念。
食べ物でも家宝にしようと思えば出来るけど、流石に腐っちゃ、意味ないだろ?
「でも、苦くしたんだよ、ビターだよ?」
「種類的には何だよ?」
「チョコレートブラウニー」
「そうか、那子って料理出来たんだな」
「ひどいっ!私は料理得意だよ!?一人暮らししてる身だよ!?」
「何か、イメージがドジっ子って感じだからな……」
「私のイメージがドジっ子だなんて、初めて聞いたよ!」
そうだろうな。
だって、誰も那子にそんなことは一言も言っていないんだから。
当たり前だ。
しかし、那子は本当に料理が出来たんだな。
那子と耀だったら、どっちの方が上手いんだろう?
「ま、有難く頂くよ」
「うん、貰ってください」
那子から貰った、まぁ、所謂〝贈り物〟を受け取った。
そこで、不安になったと言うか、心配になったことが、一つ。
「他の奴には義理でもあげてないよな?」
「あげてないよ?あ、でも加奈ちゃんにはあげたー、あとお父さん」
「あぁ、そうだよな。やっぱ身近な人にはあげるよな、うん」
よ、良かったぁー。
俺以外の人がそんな人たちで。
斎条やお父さんにあげるのは分かる。
他の男にあげてたら、どうしようかと……。
そんなの、義理でも嫌だ。
「加奈ちゃんもお父さんも大好きだけど、でも、本当に好きなのは聖君だよ」
「…………」
何か、今、嬉しい一言を聞けた気がするのだが……。
「い、今の、もう一回言って」
那子は俺の言葉に疑問を持ちながらも、もう一度、言ってくれた。
「本当に好きなのは、聖君だよ」
「…………」
ヤバイ、超嬉しい。
もう、それは涙ものの一言だ。
「聖君、最近は泣き上戸だねぇ」
「え?」
泣き上戸?
それは一体誰のことですか、那子さん?
そんなことを思っていると、徐に那子は、
ぎゅっ
「よしよし」
「……ッ!」
俺を抱きしめて、背伸びをして俺の頭を撫でた。
そうされると、俺の目からはほろほろと、涙が零れてきた。
ぽろぽろと、ぼろぼろと……。
「もう、泣き虫だなぁ」
俺は那子の背中にしがみつくようにして、泣いていた。
まるで、今までの感情が一気に、洪水みたいに流れ出てくるかのようだった。
那子といると、〝あの時〟の記憶を忘れることが出来る。
寂しさ、悲しさ、悔しさを、忘れることが出来る。
那子を、好きになれて良かった……―
俺たちは暫く、少なくとも俺が泣き止むまで、そのままだった。
衝動書きしました(ノ´∀`*)
聖だってワケありです。
最近ネタを思いつきました。
このままノロケで終わるはずがないんです!
受験終わったので、なるべく更新できるようにします。




