41 嬉しさ半分、安心半分
年が明けて数時間、初詣をする為に神社に来たのに、おみくじしかしていない。
時間と余裕がない、というのもあるが、結局信じることができるのは、己自信なのだ。
時には神様仏様だったり、他人に頼ることになるのだろうが、最終的にはきっと、自分なのだ。
そう、ようやく、やっと、ついに……。
「私と付き合ってください」
俺は、那子に告白されたのだった。
勿論、数ヶ月前に俺は那子に告白した。
しかし、答えは先延ばしになり、数日前のデートの帰り際、
その答えの鍵となるものを、那子に渡した。
その結果が、これだ。
喜ぶしかない。
返事は決まっている。
決まっているじゃないか。
決まっているのに、なのに。
「…………」
口が、動かない。
それよか、瞬きや指先ひとつ、動かすことができなかった。
俺の体は、硬直していた。
いや、実際は動いていた。
体全体が、動いていた。
その現象は、震え、だった。
「…………」
「聖、くん?」
那子は俺の返事を待っている。
なのに、何も言わない、何も言えない俺を、不審そうに見ている。
その内、冷や汗までが頬を伝い、顎の先まで滴ってきた。
「聖君、どうしたの?」
そう言って、那子が俺に近づいて、腕に触れた瞬間……、
ガクッ―……
「聖君!?」
俺はその場に膝を付いていた。
まるで、腰が抜けたようだった。
脚が震えて、立てなくなってしまったかのようだった。
「聖、どうした!?」
さっきまで面白そうに見ていた峰と斎条が駆け寄ってきた。
「…は、ハハッ……」
やっとのことで、俺は声、と言うよりも、息を吐き出すことができた。
喉が渇いて、くっ付いている感じがした。
口の中も、カラカラだった。
「何か、嬉しくて……」
「聖君……」
「も、ぅ、いつ、那子が、俺を突き、放すのかと思っ、てたから、不安で……」
不安で、仕方がなかった。
いつ、突き放されるのか、不安で、不安で……。
―だから、嬉しかった。
「…ッ!?」
突然、那子が抱きついてきた。
力いっぱい、強く、強く、抱きしめてきた。
「ごめんね!私が、早く返事をしてたら、聖君は不安にならなかったんだよね!」
「な、那子……!?」
「これからはもう、聖君を不安にさせたりしないからね!」
那子の言葉を聞くと、俺は今まで〝不安だったんだ〟と、改めて気づいた。
自分でも〝不安だった〟なんて、思っていなかった。
でも、さっき自分は〝不安だった〟と言ったのに、しっかりとした自覚が、自分にはなかったんだ。
「だから、もう泣かないで!」
「……え?」
〝泣かないで〟?
別に、俺は泣いてなんか……。
そう思って、右手を自分の頬に滑らせると、微かに、濡れていた。
汗じゃ、なかった。
目元だって、しっかり濡れている。
涙?
俺は、無意識の内に、泣いていたらしい。
「なんだ?聖、泣くほど嬉しかったのか?」
「今までに告白されたことが無かったからじゃない?峰くん、同類がいたわよ」
「いやいや、告白の2回や3回はあるわ!」
「見栄を張らなくたっていいのよ。私は今までに100回以上の告白はされてるわ」
見栄を張っているのは、どっちだ。
でも、斎条だから有り得ない話ではないのかもしれない。
そんな会話を、2人は延々と続けていた。
「聖君の小説ね、全部読んだよ」
「……ありがとうございます」
「お礼の仕方が、ぎこちないなぁ」
軽く那子は文句を言った。
「あの~、お2人さん?」
「何だよ?」
峰が話に割って入ってきた。
そして、言う。
「その格好は、ちょーっと目立ちすぎやしませんか?」
「…………」
俺たちの格好、というのは。
まぁ、抱きしめ合っているという感じ、だ。
人通りが多いから、俺たちをじろじろ見る人も多いわけで……。
俺と那子は素早く離れた。
「ご、ごめんね!いきなり、こ、こんなことして!」
「普通に抱きしめてきたのに、その動揺っぷりは何ですか」
「いや、ちょっと、恥ずかしさが、今更ピークにっ!」
那子が慌てている。
さっきまで、普通に話していたのに。
ヤバイ、超可愛い。
「那子、時間は大丈夫なの?」
「え、時間?」
「お父さんと会うんでしょう?」
「あっ!」
那子は携帯を取り出して、多分、時刻を確認したんだと思う。
「あー、まぁ、大丈夫かなぁ。もう行くねっ、今日は本当にごめんね!それじゃっ!」
「またねー」
那子は振袖姿で慌しく去っていった。
靴はちゃんと履いてたんだろうか、それとも下駄だったっけ。
結構速いなぁ。
私は急いで、家に帰った。
「ただいまー、お父さん!」
「お帰り~、那子~」
リビングに行くと、お父さんがソファに座って寛いでいた。
私のお父さんは、とても優しい人で、まぁまぁ若い方。
「振袖姿の那子も可愛いなぁ」
「ありがとう、で、話があるの」
「話?」
挨拶もそこそこに、私はお父さんの向かいに座った。
そして、口火を切った。
「私、付き合ってる人がいるの」
お父さんにこの事を言うのも何だけど、仕方が無い。
恋愛沙汰の事は言っておかなくては。
後で騒がれたら困るし。
お父さんだって、いつも会った瞬間、彼氏はいるのか?で、会話が始まるんだから。
「あぁ、那子もそんな年頃かぁ」
「とっても、いい人だよ」
「黒髪?」
「金髪」
「そんな不良とは別れなさい」
お父さんは、こんな人です。
簡単に言うと、まぁ、娘の私が言うのもなんですが、親バカです。
「黒髪って言っても、絶対〝別れろ〟って言うくせに」
「いやぁ、まだ那子には早いさ」
「その人ねー、優しいんだよ」
「そいつの話はするな」
「趣味は読書でね、自分で書いたりもするの」
「…それは不良なのか?」
「違います」
「でも、金髪って」
「地毛じゃない?」
「どこの馬の骨だ!」
「日本人だからね」
「ハーフなのか!?」
「違うと思うけど」
「付き合ってどれくらいだ!?」
「まだ数十分」
「と、いうことは、さっき!?相手は誰だ!連れて来なさい!」
そうして、父の関心は、段々聖君に向いていきましたとさ。
めでたし、めでたし。
とりあえず、進めてみた。
聖君だって不安になるときがあったのさ!
ナイーブ(?)、ナーバスなのさ!
お父さんが最大の難関です。
バレンタインのネタも書きたいなー。




