38 思い出話
スーパーで一通り買い物を終えて、自宅へと戻ったわけだが……。
「加奈ちゃん、帰っちゃったもんなー」
あーあー。と、声を漏らしながら、俺は悪態をついていた。
加奈は買ったケーキを家に置いてから来る、とは言っていた。
しかし、本当に来るだろうか。
逃げられただけではないのか。
それで、今、俺は悶々としていた。
まぁ、二人分作っても、損は無いんだけどさ。
聖が食べるし。
でも、加奈が結構な量を食べるから、多めなんだよな。
一食では食べきれないな、この量は、うん。
「……用意すっかー」
重い腰を上げながら、そう呟いた。
一人寂しく、加奈はきっと来る!と思っていれば、いいのだろう。
どうせ、料理していれば、そんなことは気にしなくなる。
〝そんなこと〟とは、言い方が酷いかもしれないが……。
最近では、料理も手慣れたもので、元々手先は器用な方だけど、手際もよくなっている。
来るかどうか分からない加奈の為に、俺は手料理を振舞うことにした。
その手料理を、一人で寂しく聖夜に食すかもしれないと思うと、更に気分が落ち込んだけど……。
ピンポーン、ピンポーン~♪
午後七時過ぎ、神林耀が住むマンションの一室に、チャイムの音が鳴った。
リビングで寛いでいた俺は、バタバタと玄関まで走っていく。
玄関の戸口を開けると、そこには、
「今晩は」
綺麗に装った、斎条加奈が立っていた。
いや、そこに立っているのは、俺が呼んだんだから、当然と言っちゃあ、当然だけど。
何か、昼間会った時よりも、こう、何と言うか、
〝おめかしした〟〝お洒落した〟みたいな感じだったから。
何か、ちょっと、ビックリした。
「あ、あぁ、どうぞ。あがって、あがって!」
「お邪魔します」
加奈は行儀良く靴を脱いで揃えて、俺が用意しておいた客用のスリッパを履いて、
リビングに向かった。
リビングの床はフローリングに、壁は白っぽいアイボリー。
部屋の雰囲気に合わせて、家具は殆ど白っぽい。
テーブルは木製で、明るめのブラウンだけれど、
ソファや、椅子、テレビの台、棚、その他諸々白だ。
「結構、キレイにしているのね」
「掃除はマメにしてるからな」
「耀くんって、そんなにキレイ好きだったっけ?」
「潔癖症程じゃないけど、人並み程度にはキレイ好き」
「へぇ……」
それにしても、呼び方とか、話し方が、昼間とは違うな。
昔に戻った、っていうか。
まぁ、学校じゃないんだから、それぐらい、普段と違ってもおかしくないか。
「これ、全部耀くんが作ったの?」
加奈はダイニングテーブルの上にある料理を見て、言った。
「まぁな」
「すごいね」
「一人暮らしだったし、従弟もいるからな」
「それだけで、こんなに豪華そうなものが作れるとは思えないけれど……」
「趣味みたいなモンだしな~」
クリスマスディナーだから、張り切ってしまったんだけどな。
ビーフストロガノフとか作ってみたんだぜ!
それから、シーザーサラダにオニオンスープとか。
勿論、加奈の好きなチーズを沢山使ったラザニアやグラタン、カルボナーラもある。
デザートのチーズケーキだってあるのだ。
完璧である。
加奈の胃袋を掴むには、もう完璧である。
「もう食うか?」
「食う」
「おぅ、威勢がいいねぇ」
俺達は向かい合って座った。
食べ始めると、加奈は既に3分の1を食らっていた。
こう見えても加奈は、結構食べるからなぁ。
量、多くしててよかった……。
「前も、耀くんに作ってもらって、こうやって食べたよね」
「あぁ…、そうだったな」
「耀くんは今より、冷たかったって言うか、無関心って感じだったよね」
「んー、そうだったかもな~」
前、か。
加奈と会ったのは、何時だったかな。
加奈が5、6歳だったから、10年くらい前か。
「耀くん、超無愛想でさ、大人からは煙たがられてたんだよ?」
「知ってたよ、それぐらい」
「あまりにも耀くんが対人関係薄かったから、私でリハビリしようとしてたんでしょ?」
「周りが、そうさせたんだよ」
当時、俺は15歳そこそこにも関わらず、友達とか、そんなものは当然、いなかった。
言い換えると、作ろうとも、その努力すらしていなかった。
必要が、無かったから。
「そういう年頃だったんだよ」
「はいはい」
加奈は子供をあしらう様に、言った。
昔は可愛かったのになー。
いや、今も可愛いけど、可愛げがないというか……。
「ね、ね!」
加奈は物欲しそうに、言った。
こういう時は大抵、食べ物関連だ。
「まだ食うの?」
「デザートは別腹だもん!」
「あー、はいはい」
テーブルの上の、すっかり何も残っていない皿を重ねて、流しに置いた。
それから、デザートに作ってあったチーズケーキを、冷蔵庫から取り出した。
ちゃんと4種類作ってあります。
スフレチーズケーキ、レアチーズケーキ、ベイクドチーズケーキ、ニューヨークチーズケーキ……。
これ、小さく作ったから、全部食べるだろうね、加奈ならね。
「はーやーくー」
「お前さ、学校の時と、キャラが全然ちがうよな……」
「耀くんといる時は、いーのー」
加奈は頬を膨らませて、不貞腐れた様に言った。
もうその行動で、昔に戻った、って言うか、退化した、って言うか……。
やっぱり、そのキャラ違うよ、お前。
「ほら、俺特性のチーズケーキだ!4種類あるからな!全部食えよ!」
「…………ッ!」
加奈は〝俺特性〟の、〝俺特性〟の、チーズケーキを目の前にして、声が出ないようだった。
そうだろうなぁ。
お前の大好物は、他でもない、俺が作ったチーズケーキだったもんなぁ!
加奈があんなに、目を輝かせるのは、俺が作ったチーズケーキだけだ。
……でも、何かそれも、空しいな。
料理だけなのか、結局は。
「いただきますっ!」
「おう、食え!どんどん食え!残らず食え!」
でも、本当に、こんなの、いつ振りだろうな。
俺が高校卒業するまでだったっけ。
懐かしいな。
「美味いか?」
「んっ、……美味しいっ!」
「……そっか」
聖でもこんな風に言ってくれないんだよなぁ。
悲しいことに。
加奈は学校ではツンツンしてるけど、昔はこんな感じで、可愛げがあってさ。
本当に、懐かしいよ。
恋愛系に繋げようとしたのですが、無理だった……。
無念です。
でも、そんなことしたら、耀さんが本領発揮しちゃうかもしれないから。
ここは、自主規制しておきました。
思い出を懐かしむ感じになっちゃったけど。
爺さんみたいだなぁ。
加奈のキャラ崩壊はどうしようもない。
実は妹属性だったんだ!




