33 デートハプニング
25日、デート当日。
9時30分。
俺は姿鏡の前で、もう一人の自分を睨んでいた。
「聖、お前何やってんだ?」
「いきなり入って来るんじゃねぇよ!」
俺の部屋にノックなしで入ってきたのは、同居人の従兄―耀である。
おかしいな。
鍵かけたはずなのに。
「ほうほう。 その顔はデート服に悩んでいる様子」
お前は何だ。
心読みか。
それとも手品師か。
何故分かった。
「そういうことなら、耀くんにお任せだ!」
「だが断る」
「よし、俺の服を貸してやろう」
「人の話を聞け」
耀は自室へと戻り、すぐに服を持ってやって来た。
行動が早いから、手も早いのか?
コイツは。
「とりあえずジャケット、こっち着てみろ」
命令形かよ。
偉そうだ。
今日に限って偉そうだ。
別に、自分で服を選べないって程じゃないっつーの。
15分間、耀に色々言われながらも、結局はラフに収まったわけで……。
ゆるカジだっけ?
何か、そんな感じ?
まぁ、無難だろ。
「もう、家出るから」
「え、何お前。 家出すんの?」
「聞き間違えだよな? 本気じゃねぇよな?」
「あぁ、そういうことか。 本気にするトコだった。」
耀もたまに危ないよな。
大丈夫か、頭の中。
「今日、帰ってくるの何時? 夕飯いる?」
「母親みたいだな。 多分、9時頃とかじゃねぇかな。 飯はいらん」
「りょーかい」
……コイツ、何でまだ家にいるんだ?
「お前、デートとかは? ないの?」
「は? 何言ってんの、お前。 頭大丈夫か?」
「お前にだけは言われたくない」
何発か殴ってから出ようかな。
気絶させてしまいたい。
「俺、彼女いないけど?」
「……いないの?」
「うん」
でも、コイツこんなんでも一応、女ウケはする方じゃなかったか?
てっきり、彼女がいるもんだと思ってたけど。
「いなかったっけ?」
「いねぇよ。 何期待してるんだよ、お前」
「お前のことだろうから、彼女の一人や二人……」
「俺のこと、節操なしだと言いたいのか! 俺は一途だ!」
嘘だ。
絶対二股とか三股とか、平気でしてそうだ。
「お前だって、那子ちゃんとはまだ付き合ってもいないんだろ?」
「……」
「人のこと言えないじゃないか」
「お前とは、違うんだよ。 行ってくる」
パソコンに繋いでいたUSBを手に取り、俺は今までにない、清々しい笑みを、耀に向けてやった。
駅前の喫茶店に行くと、既に那子がいた。
那子は、いつもおさげだったけど、ストレートロングだ。
さらっさらだ。
髪だけでも印象って変わるもんだな。
何か、大人っぽい感じ?
いつもは、ちょい幼いんだよな。
そんな髪型に、白いロングワンピースに赤いコートを着ていた。
見える範囲をざっくばらんに言うと、そんな感じ。
それから俺は、決まり文句を言いながら、向かいの席に座った。
「ごめん、待った?」
「ちょっとね。 でも、本読んでたから」
那子は、ううん、今来たとこ。とは言わずに、本当のことを言った。
やっぱり那子だ。
この決まり文句を知ってて、わざわざ違うことを言ったのかもしれないけど。
「何か、聖君、いつもと違うね」
「何が?」
「雰囲気?かな。 何か軽い感じ」
何?
軽薄そうだって?
遊び人みたいに見えるの?俺。
心外だ!
「そうじゃなくって、何かね。 肩の荷が下りたー、って感じ?」
「……?」
あれか、耀に清々しい笑みをして見下してやったからかなー。
きっとあれだ。
「那子も、いつもと雰囲気違うよな」
「そう?」
本人は自覚がないらしい。
自分のことを元から大人っぽいと思っているのか。
それか、いつもの自分を、そこまで幼くないと評価しているのか。
または、どちらの自分も自分だと自覚しているだけなのか。
……分かりにくいな。
「もう少しで電車来るから、そろそろ出る?」
「あぁ、そうだな。」
俺達が乗る電車は11時にホームにくる。
それから3つめの駅で降りる。
という算段だ。
まぁ、算段も何もないのだけど。
切符を買って、改札通って、ホームに立つ。
電車なんて、いつ振りだっけ。
春にこっち来たとき以来じゃなかったか?
そんなことを思いながら、ホームに滑り込んできた電車に乗った。
「……結構、人いるんだな」
「さっきも沢山人が出てきてたもんね」
クリスマスにも電車を使う人は多いんだな。
あの某CMも影響してるのだろうか。
車内はぎゅうぎゅうとはいかないものの、ほどほどに混んでいるという感じだ。
座るところも空いてないし、それなりに人と密接する。
俺と那子は扉の近くに立った。
実際には、同じ手すりに摑まり、向かい合うような形だ。
出発のアナウンスとベルが鳴り、電車が動いた。
ガタンッ!
と、大きな揺れがあった。
俺の手すりを掴む手が離れ、那子が寄りかかっている扉に手をついた。
ビックリして、瞑っていた目をそっと開けると。
「あっ」
那子の顔が近くにあった。
互いの息遣いが分かる距離だ。
「ご、ごめんっ」
「…………」
俺は慌てて、扉についていた手を離し、手すりを掴んだ。
那子もビックリしたのか、俯く顔が赤くなっているように見えた。
乗車中はお互い会話もなく、あっという間に、駅に着いてしまった。
電車の中でのハプニングには萌えます。
でも、恥ずかしがるなんて今更~、って思ったりもするけどね。
あれだ、背伸びなんかするから照れるんだな。




