31 過去の切れ端
文化祭の喧騒も過ぎ、すぐにテスト期間へと突入した。
「わっかんないよ~…。」
「どこが分からないの? 那子ちゃん、俺に言ってごらん。」
「那子に触るな。 下心丸見えなんだよ。」
「お茶入ったけど、緑茶でいいかしら?」
そしてテスト前日、勉強の追い込みとして、斎条邸宅にて勉強会、である。
丁度、休日だからと、那子が提案したものだ。
峰も誘ったけど、バイトだから。と、キャンセルされた。
付き合いの悪いやつだ。
しかし、だ。
「何で耀がここにいるんだ。」
「ダメ……?」
「可愛い子ぶってんじゃねぇよ、気持ち悪ぃ。」
耀は首を45度傾けて、上目遣いで口にペンを当てて言った。
可愛くねぇ。
男がやっても可愛くねぇ。
つーか、お前がやるから可愛くねぇ。
「神林先生は私が呼んだんだよ~。」
「那子が?」
「うん。 私、科学苦手だから…。」
「大丈夫だよ、那子ちゃん。 俺が頑張って教えるから!」
「いいのか、それ。 贔屓って言われないよな?」
そんなこと言われたら、那子が迷惑するだろうが。
教師ならちゃんと考えろよな。
「那子ちゃんは特別だということは、聖だって分かるだろう?」
「……まぁ。」
「あなたもあなたよね。」
「お前もだろ。」
斎条は斎条で、那子にベタ惚れじゃねぇか。
デレデレじゃねぇか。
「那子はね、可愛いのよ。」
「知ってる。」
「あなた、那子の幼少時代を知らないでしょう?」
「何っ…!?」
斎条は、那子とはいつから親友なんだ!?
那子の幼少とか、超可愛かったんだろうなぁ。
見たい。
超見たい。
「私の部屋にはアルバムだってあるんだから。」
「くっ…、見たい…。」
「見せるわけ無いでしょう?」
「…………。」
「あなたなんかに見せるわけ無いじゃない。 馬鹿ね。」
悔しい。
すげぇ、負けた気がする。
俺って、こんな斎条に見下されるんだ。
女じゃなかったら、殴ってた。
斎条でよかった。
「でも、那子って成績悪かったっけ?」
「那子はね、ちょっと要領が悪いのよ。」
「解答欄は間違えないんだけど、ちょっとしたケアレスミスがね。 えへへ…。」
えへへ…。って、可愛いなぁ。
リアルに、えへへ…。なんて言わないぞ。
普通は。
「聖君は? どうなの?」
「俺? 別に……。」
「聖も要領悪くてなー。 でも平均並み? 面白味も何もないんだよー。」
「口を開くな。 殴るぞ。」
自慢じゃないが、しかも自慢も出来ないが、いつも平均だ。
成績だけ、何故平均なんだ。
……実は色々と平均しかないのか?
でも、あんまり勉強しなくても、点はそこそこ取れるんだけどな。
「加奈ちゃんは成績いいよね。」
「まぁ、家庭教師もいるし。 親が煩いしね。」
「加奈ちゃんの親、教育家なの?」
「加奈ちゃん、って言わないでください。」
「そんなこと言わないでよ。 昔みたいに〝耀くん〟って呼んでよ。」
「言いませんっ!」
……斎条と耀って、こんなに仲良かったか?
「つーか、〝耀くん〟って、何?」
「前、言っただろ? 言ってなかったかな? 俺と加奈ちゃん親戚なんだよ。」
「そうなんですか?」
俺は大分前に聞いたような気が、しないでも、ない。
いや、ちょっと怪しい。
どうだったかな……。
「昔はよく遊んでやったな~。 家も実際近かったけど、俺が引っ越してからは全然だもんな~。」
「覚えてません。」
「俺の後ろをくっ付いては、〝耀くん、耀くん〟って、言ってたんだぜ?」
「加奈ちゃん可愛い~。」
「那子、違うから! 全然違うから!」
斎条が必死に、那子に弁解している。
彼女とデート中、元カノが現れて、彼女にあの人誰?と、聞かれた彼氏のようだ。
「でも、小学生のとき加奈ちゃん、〝好きな人は年上なんだ〟って嬉しそうに、んぐっ!」
「私が好きだったのは、那子よ! 那子!」
那子が喋っている途中に、斎条が那子の口を塞いだ。
那子が窒息死するじゃねぇか!
早く、手ぇ離せよ!
それに、好きだったのは那子って……。
百合もほどほどにしろよ。
「それより、どこがわかんないの? 私が教えてあげるから!」
「うん…。」
「ありがと~。 お陰でテスト範囲、全部終わったよ~。」
「どう致しまして。 でも、那子ちゃんの為なら、いつだって教えてあげるよ。」
「本当ですか? ありがとうございます。」
「おい、何気に口説いてんじゃねぇよ。」
俺は一発、耀を殴っておいた。
ムカツクものは殴っておく。
「もう暗いから、気をつけてね。」
「うん。 加奈ちゃん、また明日ね~!」
「じゃあな。」
「夜更かしするなよ、加奈ちゃん。」
「しませんっ!」
耀って、斎条に超馴れ馴れしかったのって、子供のとき会ってたからなんだな。
ナンパしてんのかと思ってた。
「聖ー。」
「何だよ。」
「那子ちゃん、送ってってやれよ。」
「…言われなくても、するっつの。」
何だ、こいつ。
プレーボーイの心得でも教えようとしてるのか?
だとすると、気持ち悪いな。
「那子、送ってく。」
「ホント? ありがとう。」
そうしている間に、耀は消えていた。
いつの間にか、消えていた。
音もなく。
忍者か、あいつは。
「明日のテスト、いい点取れればいいな。」
「今日だって頑張ってたんだから、取れるさ。」
「うん。」
那子の点数が良かったのかは、また別の話だ。
ちょっと長いですが、カットするのが面倒だった。
クリスマスなのに、まだこの話…。
聖のクリスマスはまだ来ないです。




