03 スキ、キス、スキ。
唇が触れる。
「ッ……!」
顔が熱い。
思わず手で顔を覆ってしまう。
「顔、赤い……」
「いま、な、なにをっ……!」
「俺への詫びだろ」
「なん、で……?」
分からない。
あんな理由でキスなんてできるの?
目的は一体、何!?
「好きだから」
「……ぇ」
「キライな奴にキスはしない」
「そ、れ……って?」
更に顔が赤くなる。
頭が上手く回らない。
頭が真っ白になる。
「でも……」
「不満?」
イヤじゃない。
キライじゃない。
腕で顔を隠しているけど、永野君も顔が赤くなっている。
照れ隠しなの、かな?
「これ、俺の一世一代の告白なんだけど」
「……でも、なんで、私?」
「憶えてないのか?図書室で会った時のこと」
「図書室?」
私は全然、憶えていなかった。
人の顔を覚えるのも苦手だから、尚更…。
「図書室でお前に本、薦められた上、夕方まで読まされた」
「……本?」
あ、薄っすらと…。
確か、入学して少し日が過ぎた頃だ。
「俺、お前の影響で読書するようになったんだ」
「そうなの?」
「しかも、殆どお前が読んでた本」
私が読んだ本…って、ファンタジー系とか学園モノとか恋愛系が多いけど……。
結構、乙女路線じゃなかったっけ?
「流石に、恋愛系とかは無理だけど……。SF系の本とかは、お前が先に借りた本ばっかり」
「……本当に?」
「本当だよ」
不良と言われている人が、私と同じ本を読んでいたなんて、ちょっと衝撃だ。
「……でも、永野君って、不良なんでしょ?」
「……不良?」
永野君は〝不良〟と言われるのが心外だ。とでも言うかのように、怪訝そうな顔をした。
「だって加奈ちゃんが……」
「喧嘩売られてるだけだ。怪我するのも嫌だし、相手に鳩尾とか食らわせるだけ」
「不良じゃないんだ……?」
「俺、目付き悪いから、不良だ。……って思われるんだろうな。」
じゃあ、皆の勘違い……?
まぁ、私もちょっとはそう、思ってたんだけど。
「5月に学校来て無かったっていうのは……?」
「事故に遭った。一ヶ月も入院してたんだ」
そう言って、永野君は自嘲気味に笑った。
何か、大分誤解のある人だな。
〝ずっと停学〟って言われてたけど……。
「話逸れたけど、返事は?」
「……えっ!?ぁ、私、あの……。」
突然、そう言われて、焦って、どもってしまった。
永野君がそう思ってくれていたとは、露ほども知らなかったし。
「今じゃなくても、いいから……」
永野君はそう言ってくれたけど、私は永野君が求めているような答えは、今は出せない。
だけど、伝えたいことは言っておこうと思った。
―だって、こんなに素敵な人なんだもの!
えぇ、つまり、惚れてしまいました。
この人に、きっと、そうです。
「私、まだ永野君のこと、全然わからない」
永野君は黙って、私の話を聞いてくれている。
「だけど、永野君のこと、もっと知りたい。……って、思ったの」
「うん」
「だから、永野君には、まだ応えられない」
私がそう言うと、永野君は頷いた。
「だろうな。 話したのなんて、まだ2回だし」
「ごめんなさい……」
「お前が謝る事ないだろ」
永野君は私に優しく言ってくれた。
優しすぎるぐらい…。
「私ね、永野君のこと、もっと知りたいの。だから、友達からじゃ、ダメかな?」
「……友達から?」
「うん」
永野君は一瞬、考え込むように目を伏せた。
「わかった。友達から、な。」
その言葉を聞いてから、私の目が少し光った。
「それから、永野君、読書好きだよね?」
「まぁ……。」
「だったら、読書クラブに入らない?」
拍子抜けしたのか、永野君は目を見開いた。
きょとん……、としてて、ちょっと可愛い……。
「そんなの、あるのか?」
「あるよ!私と加奈ちゃんしかいないんだけどね。
放課後、図書室に集まって好きな本のこととか、語ったりするの」
「………楽しい、のか?」
「私は楽しいよ!永野君も入ろうよ!」
「じゃあ、入ろ……」
「本当に?やったぁ!」
永野君が答えるより早く、私が突然、声を出したので、永野君は驚いていた。
内心、私は心が弾んでいた。
「加奈ちゃんと2人だったから、もう一人ぐらい増えないかなって思ってたの!」
「俺がいても、大丈夫なのか?」
「大歓迎だよ!読書仲間が増えるの、とっても嬉しいから!」
「そうか……」
そんな、ほのぼのとした空気も束の間だった。
バンッ!
新たな人物が現れてからは、殺伐とした雰囲気が漂っている。
「那子!?」
「加奈ちゃん!?」
私の名前を呼んだのは、加奈ちゃんだった。
私は条件反射で叫んでしまった……。
「なっ……!?あんた、ちょっと!永野聖!何であんたが那子といるのよ!?」
「何でって、那子が好きだから。」
この永野君の発言から、更に誤解と怒りを生むことになってしまいました。
1話1話の内容が長いとのことなので、短くしてみました。
区切るところ、間違っていないか心配です…。
これ、短編小説用に書いたモノなので、結構長かったんだなぁ。と、
自分でもやっと自覚したところです。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。




