26 小さなエピソード
―白桜祭当日
文化祭は、9時の生徒会の放送で始まる。
今は8時25分を過ぎたところだ。
「よしっ! 皆、いるな!?」
1-Cでは、峰を中心にクラスメート達が集っている。
しかし、〝戦闘開始〟と言わんばかりに、峰だけが活気付いている。
「もう一度言う!」
開口一番、峰が毎回口にしていたことを、反芻するかのように言った。
「文化祭の争いは、放送が流れる前から始まっている!
開店は9時だけど、30分前から宣伝をして、客引きだ!」
と、言うが、周りは生返事を返しただけだった。
それから、峰がクラス全体を活気付けるために、音頭をとった。
「これから3日間、頑張るぞー!」
那子と加奈は、ウェイトレスの服を着て、宣伝用の看板を持ち、廊下を歩いていた。
窓を見ると、既に校舎に入ってくる人達の姿も見える。
「って言われてもね。 私、あぁいうの苦手なのよ。」
「峰君も頑張ってるんだから、そういうこと言わないのー。」
「でも、面倒だなーって思わない?」
「私は、行事とか張り切っちゃう方だからなぁ。」
「那子は偉いもんね~。」
決して嫌味ではないその言葉を、那子も理解したのか、微笑んだ。
「それより、加奈ちゃんの服、ちょっと過激だね…。」
加奈は裾が短く、凹凸が少しはっきりしたワンピース姿の自分を見下ろした。
「あぁ、これね。 あの、神林がやったのよ…。」
「先生が?」
加奈はその時のことを思い出したのか、体をわなわなと震わせた。
それは、加奈が放課後、一人で服を作っていたときだった。
そんな時、ひょっこりと現れたのが、耀だ。
「あれ? 加奈ちゃん何してるのー?」
「話しかけないでください、邪魔です。」
「あ、ウェイトレスの服づくりか! そういえば、喫茶店やるって言ってたなぁ~♪」
「……」
先生を無視するなー。とは言うが、そもそも本人はそんなこと気にしていない。
「どれどれ、その糸の解れを、この俺が直してあげよう!」
「結構です。」
と、加奈は言ったのだが、いつの間にか耀の手には、加奈が持っていた服があった。
「ちょっ…と!」
「だいじょぶ、だいじょぶ~♪」
「か、返してっ!」
立ち上がって手を伸ばすも、空を掴んだだけだった。
そして、さっきまで加奈が座っていたイスに、いつの間にか耀が座っていた。
更に、ミシン台に服を広げ、縫い始めるではないか。
加奈はそんな耀を、戸惑いながら見ていた。
それから数分後…。
「でけたー!!」
「って、ちょっと、何よソレ!」
耀の手によって改造された加奈のコスチュームは、ワンピースの裾が妙に短くなっていた。
心なしか、バスト辺りとウエストがきつくなったのではないかと、心配だ。
「僕は加奈ちゃんのスリーサイズを把握してるから、きっとびったり…、ぐはぁっ!!」
教師として問題発言を口走った時には、耀は左頬を殴られていた。
「何であんたが私のスリーサイズ知ってて、服を勝手に作り変えてるのよ!」
「俺は、女の子を一目見ただけで、スリーサイズが分かってしまう目を持っているのだよ。」
左頬を押さえながら、耀は真顔で瞳を輝かせた。
「…も、もう、帰って!」
加奈はそんな耀に耐え切れず、顔を背けた。
耀は加奈が本気で怒ったと思い、焦って弁解しようとしたのだが、
「あ、ごめっ…。 その、」
「いいから、帰って!!」
その思いも空しく、耀は教室を後にした。
耀がいなくなったと分かった加奈は、その場に座り込んだ。
赤面した顔を、服に埋めて…。
その時のことを思い出すと、顔が赤くなり、発作のように鼓動が速くなる。
このことは誰にも、きっと那子にも言えないことだ。
教師とのちょっとした事件だと、他の人は思うだろうが、加奈にとっては一大事である。
異性と話すだけで、顔が熱くなり、鼓動が速くなることなんて、今までなかったのだから…。
でも、加奈はこの気持ちが何なのか、自覚するのはまだまだ先のことだろう。
「お、ウェイトレスはっけーん!」
前方から、誰かに声をかけられて、加奈は我に返った。
その声の主は、神林 耀だ。
「那子ちゃんは、いつもより可愛いなぁ~。」
いつものように、耀は軽い調子で話しかけるが、加奈は耀を避けるように、後ろに下がる。
そんな加奈に気づいたのか、耀は加奈を見て、言った。
「やっぱりな。」
「…何がですか。」
加奈は耀を睨んだ。
それでも耀は、加奈に近づきながら笑顔で言った。
「僕の仕立てた服の方が、加奈に似合うと思ったんだ♪」
耀は手を振って去っていった。
加奈の頬にキスを残して…。
「~~…っの、阿呆教師!!」
加奈は耀の去っていった方向に向かって、叫んでいた。
「お褒めに預かり光栄ですよ~…っと♪」
加奈と耀の話ですね。
ちょっと長いですが…(;´∀`)
文化祭編は結構、長くなるかも(;´Д`)
嫌だなぁ…(´∀`)アハハ…。




