17 君は太陽
「あっつ~いぃーよぉ~」
「那子、扇風機を一人で独占しないでよ」
「だって暑いんだもん」
梅雨が明けてすぐ、太陽がギラギラと眩しく輝いた。
それから一週間か二週間は、とても暑い日が続いている。
今も、太陽が沢山の建物の屋根やアスファルトを照り付けている。
その所為で、学校の中もサウナのように暑く感じる。
「図書室が、こんなに暑くなるなんて思わなかったわね」
「本当だよね~。図書館ならクーラー効いてて快適だけど~」
那子は暑すぎて、語尾が間延びしている。
那子の親友、斎条加奈は扇子を持ち込み、扇いでいる。
そして俺、永井聖はその光景を眺めながら、読書中だ。
「今は図書室のクーラー、使えないのよね」
「ねぇ~?酷いよね?拷問だよぉ~」
そう、この夏真っ盛りだというのに、肝心のクーラーが故障した。
原因は、寿命だろう。
機械も寿命には逆らえないらしい。
代わりに、申し訳程度の扇風機が設置された。
「海にも行きたーいぃ~よぉ~」
「はいはい」
「…今度行くか?海」
俺の言葉に反応したらしい、那子は瞳を輝かせてこちらを向いた。
斎条は疑惑の目でこちらを睨みつけている。
コイツは元々、男を虜にする美貌がある所為か、その姿が妙に妖艶である。
俺以外の男はその姿にそそるだろう。
俺以外の男は!
「従兄が海に行く予定があるから、連れて行って……」
くれる。と、言い終わらないうちに、那子は言う。
「連れて行ってくだしゃい……!」
興奮状態なのか、最後の言葉に拗音が混じった。
それが何処か可愛らしい。
「…従兄って、神林先生の事?」
「あぁ、まーな」
聞いてきたのは斎条だ。
斎条は俺の従兄―神林耀の親戚だから、こっちの事情も聞いているかもしれない。
斎条からそのことについては、特に聞かれていないが、興味が無いだけだろう。
「ねぇ、海には何時行くの?」
「確か、夏休みに入ってすぐだった気がする……」
「確か、夏休みに入ってから一週間後だったかしら」
「そうなの!?」
「…何でお前が知ってんだ」
「情報が何故か耳に入ってくるのよね、フフ……」
斎条は奇妙に笑った。
俺はコイツの事はあまり好きではない。
何を考えているのか、全くわからないし、不気味だ。
「まぁ、取り合えず、私の家に来ない?ここよりは、涼しいと思うわよ」
「行きます!」
「永野君は?」
「…俺はいい」
そう答えると、斎条は微笑んだ。
不気味に。
「そう。じゃあ、今日は邪魔者はいないのね」
「お前、俺のこと〝邪魔者〟って言ったか?」
「だって最近、那子と一緒にいられないんですもの」
「…………」
斎条は立ち上がって、那子の手を引いた。
「行こう、那子」
「うん!」
那子は笑顔で答えた。
「聖君、またね!」
「あぁ、またな」
2人が図書室からいなくなると、俺は立ち上がった。
そして、一つの窓に近づいて、開けた。
「……っ」
俺は咄嗟に、目を眇めた。
目を眇めたのは眩い太陽の所為だった。
窓からは太陽の光が剣のように差し込んでいた。
徐々に慣れ、目を開けると、玄関から元気に飛び出す生徒達。
暑い中、外でランニングをする運動部、外でカメラを手にしている写真部や、
デッサンをしている美術部。
文化部に分類されている筈の吹奏楽部が、ランニングしている姿を眺めていた。
吹奏楽部でも、体力づくりをするんだな。
「…眩しいなぁ」
俺は、太陽を直視した。
太陽を直接見ると、目が悪くなる。
…とか、何とか昔に言われたことがある。
「太陽か。…那子みたいだな」
俺は独り言を言うと、自然に笑みが零れた。
何なんだ、俺。
変態だ。って、何も知らない他人に思われそうだな。
でも、那子は太陽みたいに俺を照らしてくれるような存在なんだ。
本当、キラキラ輝いてるような……。
「…海、どうしようかな」
唐突に、夏休みに、海に行く事を思い出した。
―那子の水着姿、見られるかも……。
そんな考えが頭を過ぎったので、ブンブンと、頭を振った。
…俺も帰るとしよう。
今から、海に行けるのを楽しみにしておこう。
那子のはしゃぐ姿もみたい。
早く夏休みにならないだろうか、と思いながら、軽い足取りで家まで歩く。
赤い夕日に見送られながら……。
更新まで長かった。
ついでに、聖君!モノローグ長い!!
短くしました。




