94話 吐露
「国よりあの平民が大事なのか?」
苦々し気な、悔しい声。そして心底わからないと拗ねているような幼さを感じる。いままでで一番子どもっぽい。
「……理解できないと?」
「……どうだろうな。わからん」
子どもっぽさは一瞬だった。いつもと変わらない、でも落ち込んでいる声でライオネル殿下は話を続ける。
「俺は兄上が王となり、その補佐をすることに憧れた。兄上の役に立てるならと思った。幼い頃からそうなるとしか思ってなかったんだ。だが、実際は俺の独りよがりだったのかしれないな」
「……期待を裏切られたと思ったりしないんですか?」
「勝手に期待して、絶望したのは俺の方だろう。兄上には、幸せになってほしい。それは別に王になるだけが道じゃないだろ」
フィリップ殿下に怒ってたわけじゃないのね。自分の不甲斐なさに怒りが込み上げて来たというわけか。これ、喧嘩じゃないわね。
ライオネル殿下はできるだけフリィップ殿下の希望を優先させたい感じだけど、幼い頃からの憧れとの乖離にショックを受けてる。そんな感じね。
「でも悔しいと」
「……当たり前だろう。いきなり出て来た女に取られたんだぞ」
それは貴方が言う言葉なのかしら? と疑問に思ったし、頭の片隅で泥棒猫という単語が出て来た。相当フリィップ殿下が好きらしい。私、これなんて言うか知ってるわ。
「ブラコン……」
「どうとでも言え」
思ったことを口にすると、息を吐きながら自暴自棄に言い放たれる。完全に拗ねてるようだ。少しは慰めた方がいいかしら……。気の毒になってきて、フォローを口にする。
「いいじゃないですか、ライオネル殿下がフリィップ殿下を好きというだけなんですから。嫉妬というヤツですよ」
「嫉妬……」
感情を明確に言葉にしたら、困惑した声が返って来た。
「焼きもちと言ってもいいですよ。まあケイティに焼きもちをやいても無駄ですね。なんたって、ケイティは可愛いですから」
思わずケイティを持ち上げてしまった。ここはライオネル殿下も可愛いと言った方がいいのかしら?
「俺は可愛くないってことか?」
相手からそのまま返ってきて戸惑う。可愛いって言われたいのかしら? 冗談のようにも聞こえて、私は神妙に聞き返した。
「自身が可愛いとお思いなんですか?」
「……ふっ」
笑ったのが肩から振動で伝わってくる。どうやら冗談だったようだ。からかわれたようで、言い返したくなる。可愛いと言ってみようか。
「そうですね、お兄ちゃんに構ってほしくて泣いちゃうところは可愛いと思いますよー」
「お前……」
「一生からかえるネタがもらえて、フリィップ殿下に感謝です」
「俺は呪う」
「ふふっ」
忌々しく言いながらも軽口が返ってきて、私も笑ってしまう。ずいぶんと暗かった雰囲気も柔らかくなったから、私のいたずら心がむくむくと出て来た。
「じゃあ、フィリップ殿下を嵌めてみます?」
「……話を聞こうか」
やっと肩から頭を話して紅茶を飲み、私に向けられた顔はいつものライオネル殿下そのものだった。
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