93話 喧嘩して泣いたライオネル
フィリップ殿下と別れてから、私は城内へと足を運ぶ。落ち込んでいると聞いたから寝室にいるかと思えば、ライオネル殿下は自分の執務室で仕事をばりばりとこなしていた。
泣いてるっていうから心配してたけど、執務室で仕事って元気ね。って普段なら思うけど、おかしいでしょ、この状況。
私が入ったことにも気づかずにもくもくと仕事をしてライオネル殿下は顔をあげない。食堂からもらってきた紅茶とお菓子を中央の低いテーブルに置いてから、そっと近づいて声をかけた。
「ライオネル殿下?」
「……なんだ、どうした」
いったん驚いたように肩が跳ねたけど、顔は上げない。でも、返答と、仕事の手を止めてくれた。拗ねて返答もないかな。と思ったけど、話を聞いてくれる気はあるらしい。良かった。
「いえ、フィリップ殿下からライオネル殿下と喧嘩して泣かせたと聞いたもので」
ガタガタという音を立てて、ライオネル殿下が椅子から落下した。なんだギャグ漫画か? っていうものすごい動揺ぶりだ。
「兄上がお前のところまで行ったのか……」
顔を手で覆いながら、耳を真っ赤にして呟かれた。まあ、喧嘩して泣いたなんて誰にも知られたくないし、恥ずかしいよね。机の横から覗き込み、からかってやろうかとうずうずしてしまう。けど、さすがにそこまでやるのは人情が無さ過ぎるだろうと、普通に彼に手を差し伸べた。いつまでも地べたに座り込んでるわけにも行かないでしょ。
近づいて手を差し伸べると、その手を取って立ち上がる。やはり落ち込んでいるようで、片腕で顔を半分隠しながら横を向いてる。たしかにほんのり目元は赤い。
「あんまりこっちを見るな」
「……では、こちらで少し休みましょう」
じりじろ見すぎたようだ。私はライオネル殿下の腕を引いて中央のテーブルがあるソファへと引っ張っていく。いつもと違って力なくついてくる姿はちょっと可愛い。
ソファに座らせたので、真向かいへ向かうつもりだった。けど、裾を引かれる。仕方がないので隣に座る。肩に頭を預けて来たので、動けない。気が弱い時って人肌恋しいのよね。
落ち着くためのカモミールティをもらったので、彼の前にそっと移動させておく。
「……兄上が王座につきたくないと」
「聞きました」
はあと大きいため息を吐いてから、ライオネル殿下はぽつりぽつりと話始める。肩に頭があるので表情は見えない。見せたくないんだろうなと思って、私は自分の方の紅茶を手に取って口をつけた。話を聞く体制だ。
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