88話 大事な相手の死
三人とも同じように、いかに大事な相手なのかアウレリア様の口調が物語っていた。彼女が自殺したのは恋心だと思っていたけど、ずっと一緒に育った大事な相手の誰かひとりが死んだとして、彼女は傷つくのだろうか。執着するようには見えない。けど、ノクタリウス様だって表面で見るよりも、手記の執着の方がはるかに強かった。人の心なんて見ただけじゃ何もわからない。
不躾な質問だと思う。でも、彼女が大事だと言うならそれはどの程度なのか、知りたかった。彼女は自殺をする。だから、そこははっきりしておきたかった。
「……その中の誰かがもし死んだとしたら、アウレリア様はどうしますか?」
「…………」
アウレリア様が顔をしかめた。やはり、してはいけない質問だっただろうか。慌てて口を開くも、アウレリア様の返答の方が早かった。
「想像したくないわね。私は、だから最善を選んだのだし」
凛とした声ではっきりと言い切られた。そうか、彼女はライオネル殿下が戦場に立っていることが、普通ではないことを知っている。隣国との諍いがこの国に何をもたらすのかを知っている。だから、大事な人たちと国を守るために隣国へと嫁ぐのだ。
たしかに戦いになればいくらライオネル殿下が強いとしても、隣国の軍にいつまでも耐えられる保証はない。人は簡単に死ぬ。ライオネル殿下が死ねば、フィリップ殿下もゲームの通りに死ぬだろう。回避するために隣国の輿入れを承諾したのだとしたら、納得はする。
「……申し訳ありません」
「いいのよ、貴方はしっかりと情勢を把握しているだけなのだから」
私の言葉にアウレリア様は頭を振った。
アウレリア様は頭が良い。最善を選ぶような女性が、自殺することで被る国の損失を考えないはずがない。それでも彼女は塔から身を投げた。どこかにまだ私が知らない彼女の強い思いがあるのだろう。それが誰に対して、どういう気持ちなのかはわからない。
私はそれを知らないといけない。
「家族……みたいなものですか?」
私が口を噤んでいると、ケイティが話を進めてくれた。暗い雰囲気が少し軽くなる。
「そうね、フィルには幸せになってほしいの。だから貴女には厳しくなるかもしれないわね」
「それは、応援してくれるってことですか!?」
アウレリア様の言葉に、ケイティがぱっと顔を明るくする。先ほどまでの暗い雰囲気が胡散するのがわかる。私の重かった心も少し軽くなった。
アウレリア様もふっと笑い、胸を張ってケイティに応えた。
「貴女、本当にいい性格してるわね。令嬢としての在り方を身に着けることができたら……応援くらして差し上げるわ」
「はい!」
「まず、人前で大きな口は開かないことから始めなさい」
「わかりました、アウレリア様……!」
「言ってる傍から表情がだらしなくてよ」
「うふふ、だって嬉しくて……!」
微笑ましい二人の顔に、私の顔も自然と緩んだ。この光景に、彼女たちがつらい思いをしてほしくないと心底思った。
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