82話 初めてのダンス
ライオネル殿下は集まっている人の間を割って私の手を引いていく。
周りからはこそこそといろいろな声が聞こえてくるが、ライオネル殿下に連れられて王様と王妃様の前へ到着すれば、騒ぎもシンとする。
「改めて紹介する。俺の婚約者ミシェル・シルヴァレーン嬢だ」
後ろを振り返り、ライオネル殿下が宣言すると、大きな声があがった。緊張しながらも私は丁寧にカーテシーをする。
婚約発表していいとは言ったけど、さっきの騒動もあって注目度は高かったようだ。ライオネル殿下と私の元に挨拶に来る人が後を絶たない。
契約が終了して、婚約破棄になった時を想像するのは怖い気がした。契約終了したら辺境に引きこもろうかしら。
「ミシェル」
ある程度挨拶が終わったら、ライオネル殿下に呼ばれて手を引かれる。緩やかな音楽が流れているのでダンスの時間のようだ。
さっきのジュリアナ様への対応より緊張してしまう。いくら練習したからといって、初めての舞踏会で初めてのダンスだ。緊張しない方がおかしい。
大丈夫かしら、足踏まないようにしないと。
流れるようにリードしてくれるライオネル殿下につられて、会場の中心に来る。今日の主役は目の前の人だ。さらにプレッシャーが肩に乗る。
「大丈夫か?」
ライオネル殿下が心配そうに見てくる。むずがゆさを感じて、目を見れずに鎖骨当たりに視線を落とす。
「はい。緊張しましたが、無事に終わってほっとしています」
今は別の意味で緊張している。ステップに集中しなきゃ。
「……足ぐらい踏んでもいいぞ」
ライオネル殿下は笑いを抑えているように言う。私がダンスに四苦八苦しているのがわかっているようだ。
「本当に踏みますよ?」
「ミシェルに足を踏まれたくらいじゃどうともない」
顔を上げて睨みつけたけど、ライオネル殿下が柔らかく笑った。瞠目する。緊張してた私がばかみたい。ふっと笑みがこぼれた。
「わかりました、遠慮なく踏みます」
ライオネル殿下のリードが上手くて、実際は踏むまでもなく音に乗れている。だから、わざと足を踏んでやろうと躍起になる。でも、避けるのも上手い。
じと目を向けたら笑われた。私がむすっとしてると、すぐに話を変えられる。
「何時の間に花言葉を覚えたんだ?」
「アウレリア様から教えてもらいましたの。完璧だったでしょう?」
「まあな。驚いた」
認めてもらえるのは悪くない。ちゃんと花言葉を理解できていたようだ。
「ハートフォード嬢への牽制は冷や冷やした」
言葉とはうらはらに口調は楽しそうだ。だから、私も軽口を返す。
「あら、私が負けるとでも?」
「いや? やりすぎないかと思ってな」
やりすぎなのはどっちなのか。嫌がらせの証拠まで持ってくるなんて。
でも、彼らに倣ってもっとやっておくべきだったかしら。だって国外追放を狙えたら一番だったもの。
「もっと何か違うこと狙ってたな?」
「さあ? どうでしょう?」
ダンスは軽口を叩いているうちに終わった。足を踏まなかったのはライオネル殿下のリードのおかげだけど、無事に済ませられて安堵した。他の方々からダンスの申し入れもあったけど、私は病弱設定もあるのでお断りをしてパーティ会場を後にした。
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