73話 ラルフの生い立ち
私とライオネル殿下は、兄弟二人で打ち合わせをしているという机にその契約書を広げて、額を突き合わせる。
婚約解消と隣国へ嫁ぐという条件に対して、アウレリア様が出した条件の項目に目を滑らせる。
「嫁ぎ先へ直属の騎士を連れて行くことだけだな」
契約の内容はいたってシンプルだった。
「直属の騎士と言えば、ラルフさんですよね。彼を連れて行くのがアウレリア様の望みということでしょうか?」
「名前は記載されていないが、そうだろうな」
ラルフさんについてならライオネル殿下の方が詳しいかもしれない。なんといっても殿下は指揮官として戦場に出ている。騎士のことについてはよく知っているだろう。
無難な質問から攻めてみよう。
「ラルフさんが騎士になったのはいつ頃なんですか?」
「あいつが入団したのは俺が十一歳の時だな。約六年前だ。ロセリウス家から推薦があって、従者から騎士団へ入ったんだ」
「ロセリウス家の従者だったんですか? じゃあ、元々アウレリア様とは関係が深いんですね」
たしかにゲームでも良き主従として描かれていた。絆は固いという情報はあったけど、詳しく載ってはいなかったはずだ。過去について話していた視点がケイティだったから、幼い日のアウレリア様の話をラルフさんに聞いたとかそういうエピソードしか出てきていないのだろう。
「ラルフを拾ったのがアウレリアだからな。六歳頃までは身体が弱かったんだが、元気になってから街に出たことをよく話してくれたんだ。七歳か八歳頃に目が綺麗な子を拾ったとラルフを紹介されたからな」
「お気に入りじゃないですか」
「だな」
それを聞いて思いだした。ラルフさんもたしかケイティに話していた。
戦禍で家族を失い、王都に逃げ延びて来たところアウレリア様に拾われて、恩人として尊敬していると。
お互いがお互いに大切な存在か。でも恋という感情なのだろうか?
「あれ、ラルフさんって今はアウレリア様の護衛騎士をしてますよね? 六年前に入団したってことは騎士団に所属してるんじゃないんですか?」
「あいつは、めきめきと頭角を現してな、二年前に俺が初めて指揮した戦場で勲章を得て騎士の階級をもらっている。そこから騎士団からロセリウス家所属に戻っている」
「四年ほど騎士団でご活躍なさったんですね」
「あいつの気迫は物凄かったぞ。死に物狂いというか、倒れるまで練習をしていたし、他の騎士とは一線を画していた」
ライオネル殿下の表現に首を傾げる。そんな真剣に打ち込むような性格なのかしら、あののれんに腕押しのような人が……?
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