68話 実践
ある程度、部屋を回りやはりライオネル殿下が倒れていたのはフィリップ殿下の寝室だという結論に達した。
私たちは、フィリップ殿下の寝室で詳細に検分をすることにした。
「絵に記されていたのはこのテーブルです。窓際からの視点で、この角度でライオネル殿下は倒れていました」
「そうだな、この席には基本俺が座ってるな。しかし、兄上が毒を入れるとは思えない」
「その後戦死していることを考えると、フィリップ殿下には何のメリットもありませんしね」
王位継承権については二人で話がついているし、兄弟仲も悪くない。要するに、フリィップ殿下にライオネル殿下を毒殺する動機がない。
「外部の人間でしょうか……」
「そうだな。飲み物は厨房からメイドが運んできている。毒を入れるならこの部屋に来る前がチャンスだろう。ただ、毒見は厨房とこの部屋に運ばれてきてから二回、行われている。遅効性の毒は厨房の毒見で判明するだろう」
「チャンスは厨房から運ぶ時ということですね。ですが、メイドが毒見をするのであればそのメイドが入れる可能性は低いですよね?」
「ああ。城内を自由に行き来できる人間を徹底的に洗い出した方がいいだろう」
そこは私にはどうすることもできない分野だ。ライオネル殿下に頑張ってもらおう。今のところわかりそうなことはなさそうだけど……視点を変えれば何かわかるかな?
例えばそう、死んでたライオネル殿下の視点とか。
ええと、たしかこっちのアングルから倒れてるから、位置はこの椅子のところ。ここから倒れてみて……。
「おまえっ――!」
「――っ!?」
転ぶ真似をしようとして、力強い腕が私を受け止めた。いや、何してんの!? 瞠目しながら支えた本人、ライオネル殿下を見る。思ったより近くて体が固まった。
「何やってんだ、お前……」
「ちがっ、私は倒れてたライオネル殿下の視点を視たくてですね!」
「だからってそのまま倒れようとするヤツがあるか……!」
「倒れ方も実践してみたかったんですっ!」
「令嬢がヤメロ! 怪我したらどうする」
「もういいから邪魔しないでくださいっ!」
ライオネル殿下の腕を離そうとするも上手く掴めなくて、手をばたつかせてしまう。
「暴れるな!」
「離してくださいっ!!」
「だったら体制を戻せっ!」
口だけで言い合いになってしまう。だって仕方ない。心臓がうるさくて体に上手く力が入らない。離れたくて仕方ないのに。近すぎる。
「君たちは私の部屋で何をしてるのかな?」
第三者の声に頭に上った血がサッと下がる。あまりに騒ぎすぎてドアが開いた音に気付かなかった。声の方を見れば、フリィップ殿下が入口で困った顔をしながら私たちを見ていた。
面白い、楽しい、と感じて頂けたら、
下の星マークから評価やブックマークをいただけますと、今後の活力になります!




