65話 逃げようとしてるんです
日も入らない建物の裏のベンチでケイティは泣いていた。私はそっと近づいてハンカチを差し出す。びくりと身体を跳ねさせて、真っ赤になった目で私を見上げてくる。
「隣、いいかしら?」
返答は期待してなかったので、そっとケイティの隣に腰を降ろす。受け取ってもらえなかったハンカチでそっとケイティの目から涙を拭う。
「なんで……ミシェル様が……?」
「私の力魅せてあげるって言ったでしょ。今、貴女の傍にいなきゃいけないのがわかったから、私は居るの」
彼女の背中にそっと手を置いてゆくっりと撫でた。
「ひっく……ミシェル様、わたし……」
「わかってるから大丈夫よ。フィリップ殿下のこと、辛かったわね」
「わたし、ずっと自分に言い聞かせてたのにっ!」
ケイティが倒れ込むように抱き着いてきたので、背中を優しく撫でながら相槌を打つ。
「そうね、立場が難しいものね」
「そうですよ! それにフィリップ殿下は誰にでも優しいじゃないですか、わたしじゃなくても綺麗なご令嬢たちがたくさんいますし、わたしは魔法の力しか、持って、ないっ」
落ち着くまで背中を撫でながらケイティの言葉を聞く。ぼろぼろ出てくる言葉と涙は、留まることを知らない。
「だから、わたしじゃダメなんです。だから、私は距離を置くことしか考えつかなくて、だから、私はこの国を出てこうと思うんです」
もしかしたらケイティは隣国が攻めてくる前に旅に出る準備をしていたのかもしれない。それでも、フィリップ殿下とともに魔法で戦ったのよね。
「そう、ケイティはもう旅に出ると決めているのね」
「もう、ダメなんです。わたしの中で思ったこともない感情が溢れ出て、苦しくて……わたしは逃げようとしてるんです」
「いいじゃない、全て試してダメだったら、何もかも放ってしまっても」
逃げるという選択肢は存在する。私も解決ができないなら逃げ出す選択肢を選ぶつもりだ。だから、ケイティが逃げても私は彼女が生きるために選んだ道だとしか思わない。
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