50話 宰相の孫の気持ち
「あの差し出がましいですが……アウレリア様と何があったんですか?」
謙虚に、でも聞きたいことを口に出した。このまま捜しに行っても解決しないのではないか、と暗に伝えたつもりだ。
「いつものことです。できない部分を指摘したら、怒られまして」
ノクタリウス様は意外にもすんなりと答えてくれた。でも、違和感が拭えない。アウレリア様がそんなことで怒る? いえ、感情をむき出しにできる相手というのも多くはないし、仲が良いという証拠なのかもしれないわね。
「アウレリアは少し子どもっぽいところがあるんですよ。わがままとか言ってませんか?」
自我が強いとは思うがわがままというよりは真面目、融通が利かない。そんな印象を受ける。それに、上辺では強く高潔というイメージが強いけど、ケイティを相手にしているところを見ると実際は相手のことを考えている優しさも垣間見える。
「仲良くしてもらってます」
首を横に振っておく。実際、私の面倒を見てくれるし、わがままなど言われたことはない。
「それなら良かった。アウレリアは小さい頃甘やかしてしまいまして」
ノクタリウス様は苦笑する。私が視線を返して話す姿勢を取ると、訥々と話し出した。
「アウレリアは小さい頃病弱で、僕がずっと傍で面倒見ていたんですよ。外での出来事を話したり、外で買ってきた本を読んだりすると喜んでくれて――」
話を聞きながら、私はゲームに出て来たノクタリウスの書記を思い出していた。話している内容は書記と変わりはない。幼馴染で面倒を見ていた。目が離せずにずっと傍に居た。フィリップ殿下との婚約を機に自分の気持ちに気づいた。ゲームの中で一気に読めるわけではなく、一枚一枚拾って読むタイプの仕様だった。
「――もしかしたら僕が過保護なのかもしれませんね。わがままなところも可愛くて……どうしても無茶をして体調を崩してほしくない」
伏せられたまつ毛は愁いを帯びている。本当にアウレリア様のことを考えているのだろう。だからつい口が出てしまうようだった。おせっかいというのが身に染みているようだ。
「アウレリアは弱いところがあるから、支えたいんです」
アウレリア様のことを愛していると感じる。書記に愛していると明確に記載するだけはある。でも、アウレリア様は彼の気持ちをどう思っているのだろう? これだけわかりやすいのであれば、アウレリア様が気づかないはずはないだろう。身近な人――ライオネル殿下のことも心を砕くほどのお人よしなのだ。ずっと一緒にいるノクタリウス様のことに、きっと何かしら思っているはずだ。
「では、早く終わらせてしまいましょう」
私は、書類を再び片付け始める。
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