47話 お姫様抱っこで遭遇
「シルヴァレーン嬢、これはどういう状況ですの?」
ライオネル殿下がいるのに、この女――ジュリアナ・ハートフォードは、なぜ私に聞いてくるのだろう?
「ハートフォード嬢、ミシェルは具合が悪いんだ。通してくれないか?」
「まあ! そうなんですの? この間も倒れておりましたし、よっぽどお身体が悪いんですのね?」
ライオネル殿下の手前か、それ以上言うこともなく体を横にずらして道を作ってくれる。しかし、鋭い視線は私に刺さったままだ。大げさな口調も私を非難しているのがわかる。でも、体調が悪いと言っているのに言い返すなんてできない。私は唇を噛んで黙るしかなかった。
早くこいつの傍から離れてほしいと何度も心の中で思う。ライオネル殿下が歩き出すも、この女はあろうことか後ろをついてくる。
「ライオネル殿下も、ご迷惑を被っておられますのね」
後ろからねちねち言ってくるスタンスらしい。私はライオネル殿下をちらっと見た。前を向きながら早足で歩いている彼の表情は、無表情を張り付けていてまったく何を考えているのかが読めない。普段はわりと読みやすいのに。
「体調が悪い人間を医務室に運ぶのは普通のことではないか?」
「ですけど、頻繁ではライオネル殿下の大切なお時間を奪ってしまうではありませんか。殿方のサポートもままならないのではないのでは? 生徒会では窓際で黄昏ているとか、お荷物なのではなくて?」
根も葉もない話をされている。生徒会に出た時はそれなりに仕事してるわよっ。
「はあ……」
ライオネル殿下が心底イヤそうなため息を吐くのは初めて見た。小さく吐かれたけど間近なので、怒りを感じて身を竦めてしまった。
「ミシェルに関しては俺が好きでやっている。それに、彼女は生徒会に参加する時はしっかりと仕事をしてくれている」
「ですが、生徒会に参加できるのもその体調では稀なのではないでしょうか? 私なら――」
ライオネル殿下は立ち止まり、ジュリアナの言葉を遮る用に振り向いた。
「私の婚約者を悪く言わないでくれないか」
はっ? なんでここで言うの!? 口から、暴言が飛び出しそうになったのを口を押えて止める。反対の手でライオネル殿下の服をぐっと力任せに掴んだ。ほんとは首辺りを絞めてやりたいが、抱かさっている状態でやるのは危険だ。怒りの気持ちを込めてぎりぎりと服を捩じる。
ライオネル殿下はちらっと私を見てから、眉尻を下げて謝るような仕草をした。いや、はっきり言わないとずっとついて来そうだったのはわかる。わかるけど……。ジュリアナを見れば、両の手を握り締めて怒りで震えてる。
「婚約者ですって? 何をご冗談を。今私の父から打診を入れさせていただいておりますし、貴方のお父様も大変乗り気ではありませんか」
「それこそ何かの間違いだろう?」
ぴりっとした空気。いままで見たことがない冷たい視線をライオネル殿下はジュリアナに向けていた。怯んだ彼女はそれ以上言わずに唇を噛みしている。そのせいで血が滲み、ライオネル殿下には何も言えないくせに私を悪魔の形相で睨みつけてくる。
二人の威圧の怖さに身体が竦む。
「失礼する」
返答がないとわかったライオネル殿下が再び歩みを進めてくれた。ジュリアナは追ってこなかったがその形相のまま睨みつけられて、私はこれからの心身への負担を嘆くしかできなかった。
面白い、楽しい、と感じて頂けたら、
下の星マークから評価やブックマークをいただけますと、今後の活力になります!




