41話 その……ありがとうございました
さて、私はライオネル殿下にお礼を言うべきことがたくさんある。手紙でいいかとも思ったけど、それはそれで失礼では? と思ってしまう。ビジネス的なやりとりをする分には冷静でいられるけど、心配をかけたことや気遣ってくれたことにお礼を言うのはなんだかむずがゆくて……会話中は頭の片隅に追いやっていたけど、話も終わってしまったのでやっぱりちゃんと言うべきだとは思う。でも、口を開けては閉じてしまう。
心を落ち着けるために、もう冷めた紅茶を飲んだ。そう、お礼を言うのはビジネスでは当たり前のこと、恥ずかしくなんてない。
「ライオネル殿下、その……ありがとうございました」
「……あ、ああ。何がだ?」
違う、お礼だけじゃ何に対してかわからないじゃないっ。ライオネル殿下も驚いた表情のまま聞き返してきてるし。
「で、ですから……」
「うん?」
私が詰まっていれば、目の前の相手は聞く体制になって促してくる。嫌みのひとつでも言ってくれた方が言いやすいのにっ。
私はふっと息を吐いて、頭に言うべきお礼の内容を思い描く。そして、口を開いた。
「――っ。先日馬車を用意してくださいましたし、休んでいる間お手紙をいただきました。それに、今朝はアウレリア様にジュリアナ様のことお願いいただいてましたし、生徒会では私の分のお仕事もなさったとかっ! それら含めてすべてですわ!」
ぜーぜーと肩で息をしてしまう。一気にまくしたてるように言ってしまった。お礼なのにっ。なんて失礼なことしてるの、私っ! あんまりな言い方に恥ずかしすぎて顔があげられない。
「はは、元気そうで何よりだ」
笑いだされて、固くなっていた肩が落ちた。今度はさらっと言葉が滑り出た。
「……ありがとうございます、おかげ様でいろいろと助かりました」
「ああ、なら良かった」
柔らかく言われた言葉に、顔を上げれば頬を緩めて微笑んでる表情を目視して、喉がひゅっと鳴った。心臓が激しく鳴って、一瞬固まった。なに今の表情。見慣れないモノを見て動揺してしまう。
私は動揺を悟られたくないと咄嗟に貴族の令嬢の笑顔を顔に張りつけた。この時こそ令嬢の笑顔を学んでおいてよかったと思ったことはない。
「はい。では、遅くなってもいけませんし本日はここの辺りで……」
「ああ、邪魔したな。また何かあれば報告してくれ」
私は頷いてベルを取り、使用人を呼ぶ。ライオネル殿下を見送ってからも、心臓がしばらくうるさかった。
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