29話 お忍びで街へ
あっという間に放課後。生徒会でアウレリア様と仕事をした後、私は街に繰り出していた。
王都は辺境の地に比べてお店が立ち並び、大通りも広くて華やかだ。お店の飾りつけはそれぞれ特徴があって、つい立ち寄ってみたくなるほど。ただ、予想外のことは隣を歩く彼だ。
「なんでライオネル殿下がついてくるんですか?」
制服のまま街へおりようとしたら、ライオネル殿下に止められた。平民の服に着替えろと教えてくれたのはありがたかったけど、付いてくるなんて思わなかった。
「はあ? お前が護衛もつけずに平民街へ行こうとしてたから、付いてきてやったんだろ」
ライオネル殿下も質素な服に着替えている。わざわざそこまでして一緒に付いてきてくれなくてもいいんだけど。平民街ってそんなに治安が悪いのかしら?
「だいたい、具合悪いんだろ? 大丈夫なのか?」
どうやら朝の様子も気になっているらしい。ジュリアナ様さえいなければ大丈夫ですとは言えず、頬がひきつる。
「ええ、もう大丈夫です。朝のは立ち眩みです」
さらっと流してほしくて、手をぱたぱたと動かす。眉を顰められた。
「とりあえず、ひとりで行くのはダメだ」
頑なに護衛だと言い張る。私は仕方ないと首を竦めた。
「ライオネル殿下が護衛なんて恐れ多いのですけど」
「街の中で殿下はやめろ”レオ”でいい」
街中に殿下がいらっしゃるとか、やっぱり大事なのね。だから、頷いておく。しかし、ライオネル殿下の眉は上がったままだ。
「……お前、自分の立場を理解しているのか?」
「立場って、ちゃんと平民の格好してるし問題ないのでは?」
「お前……俺も似たような恰好してるがどう思う?」
私が質問で返したら質問で返してきた。ライオネル殿下の恰好といえば、質素な色をしたシャツにベスト、いつもよりは格段に下がる品質のズボンだ。でも、手入れがされている金髪の髪も、綺麗な白い肌も、その品の良さは消すことができない。そこら辺を歩いている人とはまったく世界観が違うように見える。
「まったく平民に見えませんが?」
「お前もだよ」
私も、貴族として手入れをされている髪や肌は隠せないということね。かと言って顔を隠しても怪しいし、お忍びで遊びに来ている貴族というのは、誰から見てもわかってしまうものなのだろう。
「……まあ、そうね。にじみ出てしまうのは仕方ないわね」
「いいとこのお嬢様なんて恰好のカモだろ。大人しくしてろよ」
ライオネル殿下を巻くことも、好き勝手お店を覗くことも制止されたようだ。初めて王都に出るお嬢様だものね、世間知らずだしたしかに誰か護衛はいた方がいい。ライオネル殿下でなくてもいいけど、そうなると一度家に帰って家の者を連れてくるしかない。時間がもったいないし、ライオネル殿下の同行はこの際、許可することにしよう。
「目的地は決まってますから、横道にそれなければいいんですよね」
私は、了承したことを口にしてケイティが手伝いをしているパン屋の方へと向かった。
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