28話 トラウマの令嬢ジュリアナ
朝、馬車から降りようとすると金髪が目に入った。同時に入り手を取られる。びっくりした。いままでずっと独りで登校していたので、反応が遅れる。転ばないようにエスコートされて私は馬車を降りた。
「え、ライオネル殿下?」
「迎えに」
短く言われた内容を頭の中で繰り返す。もしかしてクラスまで一緒に行くとか、そういう? 冷や汗が出た。イヤな予感がする。
「朝から絡まれてもイヤだろう」
そういって、私が了承する間もなく歩き出す。手を繋がれたままだったので、半ば強制的に歩かされる。
手を離してほしいと声をかけようとした時、視界に赤い髪が映る。反射的に手が震えそうになってぎゅっとライオネル殿下の手を握った。
「あらぁ、ライオネル殿下。朝からおいでになるのであれば一報いただければよろしかったのに」
ねっとりとした声色で、近寄ってくる。吊り上がった赤紫の瞳にねめつけられて、ひゅっと喉の奥が鳴った。慌ててライオネル殿下の手を振り払う。
幼い頃のジュリアナ様の悲鳴が頭に反芻される。
「ミシェル?」
心配そうに名前を呼ばれるも、私は彼から一歩下がった。汗がどっと噴き出して、心臓が早く鳴っている。
「あら? シルヴァレーン嬢もご一緒でしたの?」
今気づいたとでも言うように言われた。ムカツクよりも吐き気のが強くなる。私はぐっと胸に力を入れる。
「いえ、たまたま会っただけですわ。私、具合が悪いので失礼します」
まともに視れもせず、二人に頭を下げて早足に歩き出した。気を抜くとその場に蹲りそうだった。ライオネル殿下が追ってこようとするのを、ジュリアナ様が腕を絡めて留めているのが視界の先に映って、距離が開くことに少しほっとした。すっと気持ちが楽になる。
ライオネル殿下には申し訳ないけど、少し相手をしておいてほしい。私は早足でクラスへと向かう。
今朝のことがあってからか、クラスにいる間はライオネル殿下がジュリアナ様の相手をしてくれた。距離を開けてくれるのでありがたかった。
面白い、楽しい、と感じて頂けたら、
下の星マークから評価やブックマークをいただけますと、今後の活力になります!




